8. メルト = ダルクウィン公爵との出会い

 ドラゴン様が人を呼び出してしばし、やってきたのは見たことのない服を着た女性だ。

 ワンピースともドレスとも違い、白いシャツの上に臙脂色の上着を着ている。

 その上着も胸の下でボタン留めされていた。

 下はズボンだったがこれもすっと流れるようなラインでとても美しい。

 顔も銀髪に蒼色の瞳、濡羽色の翼と均整が整っている。

 このお方は誰だろう?


「ようこそいらっしゃいました、ドラゴン様。お名前を伺っても?」


『儂に名前はない。ただのドラゴンでよい。それよりも今日の用件はこの娘だ』


 ドラゴン様が私を指名してきた。

 私はぺこりとお辞儀をして対応する。

 うーん、どうすればいいんだろう?


『この娘の持っているペンダントがダルクウィン公爵家の紋章をかたどっていた。赤の他人が身につけていれば石になる魔法処置が施されていることも確認済み。お主、心当たりはないか?』


「心当たりとおっしゃいましても……。あなた、お名前は?」


「はい。シエルと申します」


「シエルさんね。私はミラー。よろしく」


「よろしくお願いいたします。それで、ペンダントを見せればよろしいのでしょうか?」


「そうね。お願いできるかしら」


 私は首にかけていたネックレスを外し、ミラーさんにそれを渡す。

 ミラーさんはペンダントを見てものすごく驚いたような顔をしていた。

 ……本当に私が公爵家なんて高貴な方の血を引いているのだろうか?


「失礼、シエルさん、あなたの両親の名前は?」


「はい。父がルード、母がミカエラです」


「……ミカエラ。なるほど、そういうこと」


「あの?」


「ああ、こっちのことよ。とりあえずペンダントはお返しするわ。申し訳ないけれど馬車で一緒に公爵邸まで来てくれるかしら?」


 公爵邸!?

 そんなところに私が!?


「あ、あの……」


「ごめんなさい。申し訳ないのだけど付いてきてもらえる?」


「は、はい。わかりました」


「ありがとう。ドラゴン様、これでよろしいでしょうか?」


『うむ。儂はねぐらに帰る。麒麟、お前はどうする?』


『もうしばらくシエルと共にいよう。なにかの縁だ、多少付き合うくらい問題ない』


『その娘を気に入ったものだな。まあ、好きにしろ。豆柴は……聞くまでもないか。では、儂はこれで行くぞ。元気でな、シエル』


「はい。ドラゴン様もここまでありがとうございました」


 私がドラゴン様に向かって一礼すると、ドラゴン様はそれを確認してから飛び上がりそのまま急スピードで見えなくなってしまった。

 短い付き合いだったけど優しいお方だったなぁ。


 そのあと私はミラーさんとともに馬車に乗って街の中心部へと向かって行く。

 目的地は小高い丘の上にある立派なお屋敷だ。

 ここがダルクウィン公爵様のお屋敷らしい。

 馬車に乗り込んだとき私の膝の上と足の周りに豆柴様たちが陣取り、ミラーさんを威嚇していたのがちょっと申し訳なかったな。

 威嚇と言っても、ものすごく可愛らしいものだったのだけど。


 ミラーさんに連れられて麒麟様や豆柴様たちと共にお屋敷の中へと入っていくと、立派な応接間へと通されてそこでしばらく待っているように伝えられた。

 ミラーさんはすぐに部屋を出ていってしまったけど使用人の方は残っていて私にお茶やお茶菓子を出してくれる。

 お茶の香りはいいしお茶菓子も素朴な味付けだけど高級品だとわかる。

 私、こんなおもてなしを受けていていいんだろうか。


「失礼します。ダルクウィン公爵がおいでになりました」


 ダルクウィン公爵様が!?

 どうすればいいんだろう!?


『落ち着け、シエル。そこまで慌てるようなことでもない』


「ですが、麒麟様」


『いざとなったら我が守ってやる。だから落ち着け』


「は、はい」


 私は立って出迎えるように使用人の方から指示を受けたため、椅子から立ち上がりダルクウィン公爵様が入ってくるのを待つ。

 やがてミラーさんとともに扉を開けて入ってきたダルクウィン公爵様はどことなく母と似た面影があった。


「ようこそシエルさん、ダルクウィン公爵家へ。私が現当主のメルト = ダルクウィンだ」


 ダルクウィン公爵様に名乗られてから初めて礼をとってないことに気がついた。

 ええと、こういうときはどうすればいいんだっけ?

 確か、羽を畳み右手を胸の前に当てて左手でスカートを持ち上げ膝を曲げる……だったような。


「は、初めまして、ダルクウィン公爵様。シエルと申します。ほ、本日は……」


「長いあいさつはあまり好きじゃないんだ。とりあえず座ろうか」


「は、はい……」


 ええと、礼の取り方を間違えたのかな?

 公爵様の不興を買ってなければいいんだけど。


「それで、君が持っているペンダントというのを見せてもらえるかな?」


「はい。こちらになります」


 先ほどミラーさんに返してもらってからバッグにしまっていたペンダントを取り出す。

 それをテーブルの上へと静かに置くとダルクウィン公爵様はペンダントをゆっくり手に取った。


「……ああ、私がミカエラに持たせた物で間違いない」


「それではダルクウィン公爵」


「ああ、シエルさんは間違いなく私の孫だ」


 ええっ!?

 私がダルクウィン公爵様の孫!?

 一体どうなっているの!?

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