7. ダルクウィン公爵領へ

 ドラゴン様の勧めに従い私は天翼族国家サファリエルへとやってきた。

 サファリエルは私の住んでいる大陸ルミナスティリスの北東部にあるらしい。

 らしいというのは私が住んでいる大陸の名前さえ初めて聞いたからだ。

 ちなみに私の住んでいたエルフ族国家フォートリオは大陸の中央やや南だとか。

 内陸地なので海と面していないみたい。


 いま私たちが向かっているダルクウィン公爵家の領地には海がある。

 というか、ダルクウィン公爵邸がある場所が海のすぐそばらしいのだ。

 海というのがどんな場所かわからないけどワクワクするな。


 ちなみにフォートリオからサファリエルに入るにはいくつかの国家を越える必要がある。

 理由は、直進しようとすると『ルミナスティリス大峡谷』という場所を越えなければいけないからだ。

 この峡谷は底が見えないくらい深く、対岸も空を飛んでなお確認できないくらいに遠い。

 大昔にこの峡谷を越えようとしたヒト族は何人もいたらしいが、すべて行方不明となったそうだ。

 麒麟様によると峡谷の内部には凶悪なモンスターがひしめき合っており、そもそもそのモンスター達を通り抜けないと対岸には行けないとか。

 そしてたとえモンスターに勝てるとしてもルミナスティリス大峡谷内部を吹き荒れる暴風はヒト族を軽く吹き飛ばし、壁のシミに変えてしまうらしい。

 天翼族のような飛べる種族であっても、大峡谷を越えている途中で風の壁に当たるそうで結局は越えられないそうだ。


 そんなところを私たちはドラゴン様の背に乗って越えた。

 風の壁というのもドラゴン様の前では役に立たなかったらしい。

 おかげで大地の割れ目の先にあるサファリエルへも簡単にやってこれた。


『さて、日が落ちてきたな。今日はここらで野営をし、明日ダルクウィン公爵家に向かうぞ』


「はい。かしこまりました、ドラゴン様」


『ドラゴン、もう少し飛べるのではないか?』


『これ以上進むとサファリエルの兵に見つかるかもしれぬ。シエルは実質密入国者だ。正式な身分を手に入れるまで危険を冒すべきではないのだよ、麒麟』


『そういうものか。面倒なものだな、人というのは』


『まあな。どこにでも自由に行ける我らとは違う』


「わふ、わふ」


『おお、お前たちもおったな。シエルが眠っている間、そばで守ってやれよ』


 幻獣様たちはそのお力の強さからどの国であっても縛り付けることなどはしない。

 稀に幻獣様の素材ほしさに幻獣様を襲う者がいると聞くが返り討ちにしかあっていないとか。

 そして、幻獣様は生まれたときから成体であり子供の期間がない。

 つまり生まれたときから存分に知恵と力を振るえる。

 ……よくそんな恐ろしいお方を襲えるものだ。


 あと、豆柴様も一緒についてきてくれた。

 豆柴様の首にはいつの間にか首輪がつけられており、色違いでとっても可愛らしい。

 豆柴様のお役目は私の心を癒すことなんだとか。


『シエル、例の馬車を出せ』


「はい、ドラゴン様」


 私はドラゴン様からもらったウェストポーチから1台の馬車を取り出した。

 このウェストポーチも馬車もドラゴン様からいただいた魔法の道具である。

 ドラゴン様のねぐらを出発する前にドラゴン様が集めている宝の中からなにか持っていけと言われたのでいただいてきた品だ。

 正確には「どれかひとつを選べ」だったのだが、麒麟様が「代わりの宝物をやるからケチケチするな」と言いだし、たくさんいただくことになった。

 ほかにも魔法の道具はいくつもいただいており、私がいま着ている服やコート、杖にカンテラも魔法のアイテムである。

 どれもこれも本当にありがたい。


 私は馬車の側面から内部へと通じるドアを開ける。

 するとそこには温かな木目調のリビングが広がっていた。

 この馬車は内部が拡張されていて二階建てのお屋敷くらいのサイズがあるのだ。

 掃除もしなくていいらしいし、きれいな水も贅沢に使い放題。

 馬車自体も魔法の力で守られており、事前に登録されている者しか中に入ることができない優れものだ。

 本当に便利なものをいただいてしまった。

 マジックバッグだって試しにどれくらいの物が入るか検証させていただいたところ、ドラゴン様が貯めていた財宝や生え替わった鱗や爪、牙などをすべて収納できたし商人にとっては本当に垂涎の品だろう。

 もちろん、ドラゴン様の財宝はお返しした。

 鱗や爪などは邪魔なのでそのまま引き取ってくれと言われ、バッグの中にしまいっぱなしであるが。

 ちなみにこのマジックバッグも決められた者しか使えない。

 これまた便利なアイテムだ。


 私はこの宿より豪華な馬車の中で一夜を明かし、翌朝ダルクウィン公爵家に向けて出発する。

 ドラゴン様の背に乗っていればモンスターに襲われることもほかの誰かに見つかることもないらしい。

 私のようにほかの国から国境をまたがず来ている者にとっては大変ありがたい話だ。

 ……密入国なんだけど。


『見えてきたぞ。あれがダルクウィンの街だ』


「うわぁ、あれが……」


 ドラゴン様の背から見える街は大きな湖のような海を中心に広がっていた。

 あそこに港という海に出る船の泊まる場所を作り、そこから栄えていった街だそうだ。

 いまでは街壁が何重にもある巨大な街へと変貌しているみたい。


 そんな街の一番外の街壁そばにドラゴン様が着陸した。

 さすがに着陸するほど高度を下げるとドラゴン様も地上から見えるため、街壁やその外にいた人たちは混乱を起こしていた。

 それでもドラゴン様が攻撃する姿勢を示さなかったため、街の守備隊も様子を見るだけにとどめたようだ。


『ダルクウィンの守備兵よ、ひとつ頼みがある』


「ドラゴンが喋った!? モンスターではなく幻獣様か!」


『ダルクウィン公爵家に連なる娘を連れてきた。それを鑑定できる者を連れてこい』


 ドラゴン様の言葉に守備隊はまたパニックを起こしてしまった。

 そうだよね、幻獣のドラゴン様が現れただけではなく街を治める貴族様に連なる者を連れてきたというんだもの。

 でも、ほかに言いようがないし仕方がない……のかな?

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