6. 人間族のしていたこととシエルの生まれ
『戻ったか、麒麟。それで、結果は?』
『結果だけ伝えると、人間族が邪神召喚を試みていた。我やロック鳥、サンダーバードが襲いかかり、儀式場を破壊してきたのでこれ以上なにもできまい』
『そうか。しかし、邪神とはな……』
『これ以上はヒト族の問題だが、なにを考えているのか』
麒麟様もドラゴン様も黙り込んでしまった。
でも、邪神召喚か。
おとぎ話に出てくるようなことを人間族はしようとしていたってことかな?
そんなことができるんだろうか?
そこを聞いてみると、麒麟様は短く「できる」と答えてくださった。
『邪神召喚は過去から何度も試みられているポピュラーな召喚術だ。人間族の国家に邪神召喚の儀式について資料が残されていたことについては疑問が残るが、その点以外については特別珍しいことでもない。数百年に一度は試みられていることだ』
『前にその儀式が行われたのは……およそ500年前だったか?』
『それくらいだろう。そう考えると、人間では十世代以上前のこと。正確な記録が残っていること自体が怪しいが』
ドラゴン様が気軽に500年前と述べられたが、それってすごい昔のことだ。
わりと長寿な天翼族でさえ300歳まで生きればかなりの長生きなのに、それよりも長いだなんて。
だけど、麒麟様の話はまだ終わらないようだ。
『儀式場の周囲にたくさんのヒト族の亡骸があった。おそらく生贄にされた者たちだろう』
『そうか。弔ってきたのか、麒麟?』
『もちろんだ。ただ、気になることが一点。多くは人間族だったようだがその中にごく少数の異種族も混じっていた』
『ふむ? ただの奴隷ではないのか? 人間族国家では異種族を奴隷にしていると聞くぞ?』
『そうなのだが……一部の割合が多かったのが気になる』
『一部の割合だと?』
『エルフ族が生贄に捧げられた異種族の中で群を抜いて多かった。なにか裏があるのだろう』
エルフ族の割合が多かった?
それって私の過ごしていた街の人たちじゃ……。
『なるほど。それを調べる気は?』
『シエルは気になるだろうがないな。そこまで深入りする理由もないし、ことが大きくなりすぎている。我らがあぶり出さなくとも自然と表に出てくるだろうよ』
……そうだよね。
なんでも幻獣様に頼るわけにもいかない。
調べるなら私ひとりでとなるかもしれないけれど、私ひとりで調べられるはずもない。
悔しいけど諦めるしかないのかな。
『すまないな、シエル。だが、幻獣が無関係な事件と関わりを持ちすぎるのもよくないのだ。理解してもらいたい』
「はい。存じ上げております」
『なら、結構。では、次に儂の話を聞いてもらおうか』
ドラゴン様の?
そういえば、先ほどなにかを言いかけていたような。
『シエルの生まれがわかった。シエルは天翼族の国にある公爵家の関係者だ』
「公爵家!?」
公爵家といえば過去に国王とつながりのあった血筋の家系だよね?
なんで私がそんな家系の生まれだと……?
『シエルの持っているペンダントはダルクウィン公爵家の血筋を表す物。シエルがそれを持ち歩いているのであれば、それはシエルがダルクウィン公爵家の者だという証だ』
『まて、ドラゴン。それだけで一国の大貴族と血縁関係があると結びつけるには……』
『そう急ぐな、麒麟。そのペンダントだが、いまは黄金の輝きを放っている。しかし、血縁関係がない者が長く身につけていると石になってしまうのだ。それがシエルの生まれがダルクウィン公爵家につながっているという証だ』
他国の公爵様の血筋だなんていきなり言われても……どうすればいいんだろう?
『シエルよ。この話、家族から聞かされたことは?』
「い、いえ。一度もありません、麒麟様。ただ……」
『ただ?』
「なにがあってもこのペンダントは手放さないようにと。それから、本当に困ったことがあれば天翼族の国に向かえとも」
『……つじつまは合うな。これはシエルを天翼族の国に連れて行く必要ができたかもしれぬ』
……なんだか、私の知らないところで大事になっている気がする。
私が公爵家の血縁者などという高貴な生まれだとは思えないし、そんな話も聞いたことがない。
だけど、ドラゴン様はこのペンダントが公爵家の血縁者を表すものであると宣言なされた。
私はどうすることが正解なんだろう?
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