第二章 明かされる生まれと契約の始まり
5. ドラゴンのねぐらで
あの日、麒麟様の背に乗りエルフの軍隊より逃げ出してから1カ月あまりが過ぎた。
いまいる場所はエルフの国より遠く離れた場所にあるドラゴンのねぐらだ。
この場所は人里からかなり離れた岩山の奥になるため、わざわざドラゴンを討伐に来る人も滅多にいないのだとか。
麒麟様は安全な隠れ家としてここを選ばれドラゴンと交渉を行い、私と豆柴様をここに置いてエルフ族と人間族の様子を調べにいかれた。
ちなみに、ここのねぐらの主であるドラゴンも幻獣らしい。
ドラゴンには幻獣であるものとモンスターであるものの2種類があるようだ。
ここのねぐらの主は幻獣の方のドラゴンである。
違いは話が通じるかどうか。
ここのドラゴン様はねぐらの中にたくさんの財宝を溜め込んでいらっしゃるが、大半のヒト族はこれを奪いに来るため話し合いにならず戦闘となるらしい。
でも、戦闘をせず話し合いで物々交換を行えば、この財宝の中から差し出した物に見合う物を持ち帰ることが出来るそうだ。
差し出された物は新しい財宝としてまた保管される。
財宝を見せていただけたが、武器や盾、鎧などの武具が多いのは大半がそういった物を持ち込むからみたい。
ほかにもいろいろな物があるけど、どれも財宝だとわかるものばかりだ。
『ふむ。麒麟の奴はまだ戻らぬか』
空からドラゴン様が舞い戻っていらっしゃった。
その手には不釣り合いなほど少量の果物が握られている。
ドラゴン様の食料ではなく私の食料だからだ。
『しかし、困ったものだ。麒麟が戻ってこなければこの娘をどこかにやることもできぬ。置いておくのは問題ないが、稀にやってくるヒト族と出くわしてはややこしいことになる』
「ご迷惑をおかけいたします、ドラゴン様」
『いや、迷惑とは思っておらぬが。まあ、いい。食料としてとってきた木の実だ。毒はないはず。虫などには注意して食べよ』
「はい。ありがとうございます」
「わんわん!」
食料自体はサンダーバード様からいただいた海の魚もまだ残っている。
でも、もう残っている魚は私の背丈並みもある魚がほとんどで食べ方がわからない。
サンダーバード様に言わせれば「焼いて切り分けて食べればいいじゃん」とのことだが、いかんせん大きすぎる。
私のマジックバッグはあまり容量がない。
しまいっぱなしにするのはちょっとつらいんだけど、捨てるわけにはいかないため容量を使ってでもしまっておくのは仕方がないことだ。
本当は食べることができたらいいんだけど……。
『それにしても瘴気を放つ魔法とはな。人間族め、なにを考えておる』
「さあ、それは私にも……」
『ああ、独り言だ。気にするでない。しかし、お主の顔、どこかで見た気がするのだが』
さすがに気のせいだと思う。
私の知り合いに幻獣様はいなかったし、ドラゴン様となど会ったことがない。
でも、ドラゴン様は私の顔を見てなにかを思い出そうとしているし、どうしたんだろう?
『ううむ、なにかがこう引っかかるのだが……』
「ええと、気のせいでは?」
『気のせいにしては……ん? お主、ネックレスをしていたのか?』
「あ、はい。亡くなった母からもらったペンダントを付けております」
『それにはなにが描かれている?』
「え? 母には旅のお守りとしか……」
『見せてみよ。悪いようにはせぬ』
「は、はぁ」
私はドラゴン様の望み通り、普段は服の下にしまっているペンダントトップを取り出した。
これは孤児院に行ってからも私の私物として持ち歩いていた物だ。
孤児院に入ったとき私物はだいぶ取り上げられてしまったけど、カバンとペンダントだけは死守した。
『うむ!? その紋章は!』
「え?」
『なるほど、見覚えのある顔のはずだ』
「あの、ドラゴン様?」
『ああ、話が見えないだろうな。お主は……』
『戻ったぞ、ドラゴン』
ドラゴン様がなにかをお話しになろうとしたとき、ちょうど麒麟様が戻られた。
なんというか、間が悪い……。
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