3. 幻獣サンダーバードと豆柴

 空から現れたこの青い巨鳥。

 サンダーバード様というらしい。

 普段は『海』という場所の近くの山で寝ていることが多いようだけど、今日はこの近辺まで散歩ならぬ遠出の飛行に来ていたみたい。

 そこで私のことを助けたロック鳥様を見つけ、私の食べ物を探すために自分の住処の方まで戻ってお魚を捕ってきてくれたそうだ。

 でも、持って来てくださったお魚がどれも大きい。

 一番大きいお魚なんて私の背丈よりも大きいほどだ。

 これ、食べれるのだろうか?


『どうした? 食べないのか?』


「ああ、いえ。『海』という場所を知らないものですから、食べても大丈夫なのかと……」


『ああ、海を知らないのか』


「はい。どういった場所なのでしょう?」


『んー、地面を囲っている塩水の湖? みたいな? 湖は知っているか?』


「はい。湖は見たことがあります」


『じゃあ、その中に陸地があると考えてくれ。そして、海の水は塩水だから塩が作れる。単純に乾かすだけじゃだめらしいけどな』


 塩が作れる水!

 塩といえば生活になくてはならない貴重品だ。

 普通の塩は岩から取れると聞いたのだけど、どうもそれだけではないらしい。

 ともかく、海まで行ければ塩も手に入るそうだ。

 でも、かなり遠いそうなので簡単ではないようみたい。

 そして、海の魚というのは鮮度がよければ生で食べられる種類もあるとのこと。

 私は生食なんて勇気が出ないけど……。


 そうサンダーバード様に説明したらお魚を焼いてくださった。

 雷で焼いたそうなんだけど、どういう原理なんだろう?

 ともかく、芯まで火が通っているそうなので一口食べてみることに。


「……美味しい!」


 ほどよく塩気が残っていて身がほくほくしつつ皮はパリッとしていてとっても美味しい!

 こんなお魚食べたことがない!

 私は夢中でサンダーバード様が焼いてくださったお魚を一匹まるごと食べてしまった。

 ああ、美味しかった。


『ん? 一匹で満足か?』


「はい。これ以上は食べられそうにありません」


 私がもう食べられないと申告すると、サンダーバード様は少し目を見開き驚いたような表情になった。

 どうかしたのだろうか?


『そうか? ヒトって意外と小食なんだな』


『サンダーバード、お前を基準にするな。お前はクジラをまるごと食べることもあるだろう』


『ああ、そういえばそうだったな。俺が基準じゃおかしいか』


『おかしいに決まっている。……それで、この余った魚はどうする気だ?』


『……やっべ、全部食べられると思って捕ってきちまった』


 サンダーバード様は馬車いっぱいになりそうな量の魚を私ひとりが食べることができると考えてらっしゃったようだ。

 さすがに私の背丈ほどもある魚は無理かな……。


「わふ! わふ!」


『ん? 豆柴どもも腹一杯か』


「マメシバ?」


『ああ、お前は知らないのか。そいつは『犬』って言ってな。狼を人が飼いやすいように品種改良した種類らしい』


「品種改良? 狼をですか?」


『そうらしいぞ。まあ、異界の存在だからよくわからん。この世界じゃ不老の体を得たみたいで、それ以外にも能力を持つ幻獣的なポジションになる。お前を拾ってきた森にいた豆柴がお前を心配してついてきたんだ』


「そうだったんですね。ありがとう、豆柴様」


「わふ! わふ!」


 豆柴様は気がついたら全部で5匹いた。

 私に群がってきて押し倒すのかと思いきや、足元で座って期待した顔で見上げている。

 ええと、頭をなでてあげればいいのかな?

 試しに1匹なでてあげると嬉しそうに体をくねらせながらじゃれついてきたので間違いはなかったみたい。

 他の子たちも一緒になって腕に絡まってきたけどね……。


 それにしても、この残ったお魚はどうしよう?


『呆れたな。しかし、このまま腐らせるのももったいない。氷の魔法で冷凍しておけばしばらくは保つか』


『そうだな。俺には無理だからロック鳥に任せた!』


『調子のいい奴だ。私も氷の魔法はそれほど得意ではない。麒麟、お前はどうだ?』


 ここで話は麒麟様に向けられた。

 向けられたのだが、麒麟様がおられない。

 どこに行ったのだろう?


『麒麟め、どこに行ったのだ?』


『気配はすぐ側にあるし食べ物でも探しに行ったんじゃないか?』


『これ以上の食糧を持って来てどうする?』


『さあ? 俺の考えることじゃない』


『まったく、当事者意識の薄い連中だ……』


 ロック鳥様はなんだかんだ文句を言いながらもお魚を冷凍してくださった。

 これで数日は腐らせずに済むらしい。

 このあと戻ってきた麒麟様も山菜や果物など森の恵みを取ってきてくださった。

 ありがたいけど、さすがにこの量はなぁ。


 それから、私はこのまま数日間ロック鳥様たちと過ごすように命じられた。

 怪我の影響でうまく動けないというのもあるが、呪いの影響がどの程度体に残っているかがわからないらしい。

 それを調べるためにも10日ほど一緒にいるようにとのことだ。

 私も初日はお魚を食べるのにロック鳥様の背中から降りるのがやっとだったので大変ありがたい。

 幻獣様が私の守りについてくださるだなんて身に余る光栄だけど、お言葉に甘えさせてもらおう。

 元気になったら街がどうなったか調べにいかないと……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る