第92話 誰だって何だってエイリアン

 イカもタコも歯ごたえバツグンなので、咀嚼回数は自然と増える。いつもの食事よりも時間がかかっているのかもしれない。しかし、気にしない。料理は絶品。イカリングもタコ飯も最高だ。お出汁の深い味わいと、タルタルソースとイカのマリアージュが、口の中でお祭りを繰り広げている。目を閉じれば、イカとタコが水中でゆらゆらと踊る幻想的な光景まで浮かんできた。


「悠里ちゃん、美味しそうに食べるね」


 クスクス笑うジョージくんの声に、瞼を上げた。大きなイカ飯が乗っていた彼の皿は、既に空になっていた。


「すごく美味しいよ。ほんっと、最高すぎる」


 噛むのに夢中で、適切な語彙で適切な食レポができなくてすまないが、とにかく美味なのだ。


「このお店、エイリアン界隈でも評判なんだっけ」


 もぐもぐする合間に訊けば、ジョージくんはうんと頷いた。


「人気店だよ。エイリアンも美味しい食事は大好きだから。それにこの店の食材の多くは、イカとタコだし」

「え? イカとタコにも理由があるの?」

「イカタコは元々、地球外生命体エイリアンだからね。地球原産の食材よりも、僕らには親和性があるんだ」

「ンン⁉」


 むせそうになって我慢をしたら、余計に喉奥が変な具合になってしまった。ぐへぐへと妙な音の咳をする私に、秋月くんが追加の水を注いでくれた。


「げほッ……ごほッ……あ、秋月くん……全然びっくりしてないね」

「……今まで散々エイリアン絡みのぶっ飛んだ話を、エイリアン直々に聞かされてきたんだ。今更イカとタコがエイリアンだなんて話聞いても、驚かねーよ。むしろ見た目的には一番説得力があるだろ。悠里は変なところで耐性ねえよな」


 むせ込みが治まらない私の背中に、ためらいがちに秋月くんの手が伸びてくる。温かい感触が背中に広がってちょっとびっくりしたけど、大きな手でトントンしてもらったら、不思議なほど楽になった。


「……イカとタコがエイリアンって、ことはその……エイリアンの皆さん的には……共食いってことにならない……?」

 

 私がむせるほど仰天した点はそこなのだ。しかしジョージくんは、ケロリとした顔でこんな風に返した。


「僕から見れば、地球人の君たちがエイリアンなんだよ。君たちも昔からイカとタコを美味しく食べてきたでしょ? だから地球のイカタコ料理はどれも美味しい。君たちもエイリアンなら、君たちだって共食いしてることになるし、もっともっと言うと、牛も豚も野菜や果物だって、生命である以上はどこかの視点から見たらエイリアンになるんだよ」

「んんん……? ん……? そう……? そう、なのかな……」


 言われてみれば、そうかも知れない。確かにジョージくんや八幡ちゃんから見れば、私と秋月くんの方が異星人エイリアンなわけで。

……なんだか頭の中がごちゃごちゃしてきた。水中で絡み合うイカタコの足のように。


「まー、難しいことは置いとこうよ。ね、デザートも注文しない? 僕がごちそうするからさ」

「この店、デザートなんてあるのか……? イカタコ使ったデザート……?」

「ふふふ。来てからのお楽しみだよ〜」


 プルプル星人が企み顔を浮かべながら、店員さんを呼びつけていた。

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