第84話 マイム・マイム会合

 いよいよ明日は前期試験。そんな日の朝、目が覚めるなり八幡ちゃんが私に告げた。


「今日はボク、よそでお泊りするので帰宅しません」

「おはよう……ん、よそでおとまり?」


 まだまだ寝ぼけ眼の私は、呂律の回りきっていない言葉でオウム返しした。


「…………ああ。八幡ちゃん、別に明日私が試験だからって、そういう気遣いはしなくていいよ」


 目をゴシゴシこすって、私は伸びをしながら八幡ちゃんに返す。もしかして彼は、試験前日の私を気にしてくれたのかも知れない。

 しかしパカパカ星人は、朗らかに笑って首を振った。


「いえ、違います。気遣いではなく、ただ偶然予定があるだけなんです。昔から仲良しのエイリアン達と定期的に開催してきた、お楽しみ会に参加するんです」

「お楽しみ会?」

「ハイ。今回の会は、そうですね名付けるならば、マイム・マイム会合です!」

「マイム・マイム……」


 名前から会の概要を全く予想できない。私は寝癖でボサボサの頭をかしげていた。


「マイム・マイム……? マイム・マイムマイム・マイムマイム・マイム……マイム・マイムって、あのマイム・マイム? 『マイムマイムマイムマイム、マーイーム、ラッセッセ』って踊るやつ?」


 踊ったことはないけど、曲だけは何となく知っている。フォークダンスの定番曲だ。うろ覚えのフレーズを口ずさんでみた私に、八幡ちゃんは「あっはっは」と小さな手を叩いて笑った。


「そうだけど、そうじゃないです! あはっ、悠里ちゃん面白いなぁ。『マイムマイムマイムマイム、マーイーム、ベッサッソ』です!」


 八幡ちゃんは軽やかにその場でステップを刻みながら、私が歌ったフレーズを訂正した。


「ラッセッセは初めて聞きました。レッセッセって誤解してる人が日本人には多いんですよね。有名な漫画にそのように書き込まれているので、その影響でしょうか」

「へえ。そうなのか」


 その漫画の一コマを、ネット上で見かけたことがあったかもしれない。レッセッセがラッセッセになってしまっていたのは、単純に私の記憶力の問題だろう。


「あの歌は、水を掘りあてたことへの喜びを表現した歌なんですよ」

「水?」

「そうです。マイムって、ヘブライ語で水って意味です。『マイム、ベッサッソ』の部分は、『水だ、やったー』って歌ってるんですよ」

「へええ。知らなかったよ」

「日本にはイスラエル民謡として広まりましたね。パレスチナやイスラエルのあるあの地域は、乾いた土地ですからね。水は貴重なんです。歌詞の中には、旧約聖書からの引用もあるんですよ。作ったのはワルシャワのユダヤ人作曲家で、日本にはGHQ統治下の時代に入ってきました。以来広く踊られるようになったんですね」

「へえ!」


 知らなかったなぁ。なんとなく聞き慣れない言語の歌だなぁと認識していた程度だ。

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