第63話 上司と部下

 ヨネ子ちゃんから「控えてなさい」と命じられ、フサ子さんは項垂れながら壁際へと退散していった。


「部下の非礼をお許しくださいね」

「いえ、そんな」


 申し訳なさそうに、ヨネ子ちゃんが再び頭を下げた。


「年長者ぶってますけど、フサ子はあなたがたお二人とそう変わらない若さなのです。青二才ですよ」

「そうなんですか?」


 膝を曲げたままでは話しづらいので、ヨネ子ちゃんと八幡ちゃんには椅子に座ってもらうことにした。カウンターの中に入ったジョージくんが見守る中、私と秋月くんはレプレプ星人とパカパカ星人に向かい合っている。


地球でモヒカンを見かけなくなったとか、こんなに仲間に引き入れたくなった地球人はだとか言ってたが……てっきり地球に来て長いベテランなのかと思った」


 秋月くんは先程のフサ子さんとのやり取りを回想したのだろう。げんなりした表情で、小さく溜息を混ぜながら述べる。


「あら、あの娘ったらそんなことを? ふふっ。ああ、可笑しい。見栄を張ることばかり一人前なんだから」


 ヨネ子ちゃんは白い歯を見せながら大きく笑った。


「フサ子は地球に派遣されて一年ほどしか経ってませんよ。地球人をスカウトできた経験なんて、まだ一度もありません」

「一年? なんだ。僕よりもペーペーじゃないか」


 目を丸めて呆れているのはジョージくんだ。


「そうですよ。しかもあの娘はちょっと訳ありでね。行き場をなくしているところを、私が拾ったんです」

「拾った?」

「ええ、そうです。彼女はレプレプとしてのプライドが高すぎる上に、仲間に対しても高圧的な態度になってしまうのです。組織内で上手くやっていけなかったのでしょう……前の雇用主ボスからクビにされ、住処すみかからも追い出されていました。野良エイリアンになりかかっているところを、私が保護したようなものですよ」

「野良エイリアン……」

「少しだけ、私共レプレプについての話をさせていただいてもいいでしょうか」


 ヨネ子ちゃんはオレンジジュースの入ったグラスをカウンターに置いた。刺さったストローがゆらりと揺れて、グラスから水滴がつつつと下へ垂れていった。

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