第58話 強運

 私のくじ運の強さには定評があることは、以前言及したと思う。

 福引で残念賞のティッシュに当たった経験はなく、真ん中以上の景品を絶対に引き当てられる。だから家族で結託して福引券を集めて、ガラガラを回すのは子どもの頃から私の役目だった。


 神社のおみくじでは、大吉か大凶ばかり引く。大凶なんて引いた経験、皆あまりないのではなかろうか。元々混ぜてある枚数が、大凶は大吉よりも少ないのだろう。だから私が引き当てるのだ。くじ運の強さは、結果の良い悪いに左右されない。ただ数が少ないものを引き当てる。そういうものなのだ。


 そんな私のくじ運の強さは、どうやらビンゴでも有効らしい。そしてエイリアンビンゴだろうが、地球人ビンゴだろうが関係ないことがこの日、証明された。


「おめでとう‼ 悠里ちゃん!」


 ビンゴ開始から数分後。四つ目の数字が読み上げられた瞬間に、私の一番乗りが決まったのだった。


「すげーな、お前」


 秋月くんが心底驚いている。この顔、あまり見られないなぁ。嬉しくなった私は、「ふふふ」と得意顔で笑った。


「くじ運強いんだよー。運だから、特技とは言えないけど」


 そこが残念な点ではある。ビンゴが強いことは、その人の能力の高さとして判断されないだろう。ただまぐれで強いだけなのだから。


「謙遜することないのに」


 ジョージくんが不思議そうにつぶやき、その言葉に八幡ちゃんが強い口調で同調した。


「そうですよ! 悠里ちゃん、運の強さも誇るべきアビリティの一つです。強運はただのまぐれじゃなくて、悠里ちゃんの思考の癖から成立した立派な能力なんですよ!」

「思考の癖?」

「悠里ちゃんは基本的にとってもポジティブシンキングでしょ。それにあれこれ複雑に考え込まない」

「まあ、そうだけど」

「くじ引きする時、当たることだけを考えるでしょ。欲しい景品とか」

「うん」

「希少なものを何となく当てたいなーとか考えるでしょう?」

「そうだね。何となく、人間のさがみたいな?」

「そしてハズレることなんて考えてないんじゃないですか?」

「そうだね、他のこと考えないかな。欲しいな。当たりたいなってことだけ」

「そういうことです」


 嫌なことは考えたくないし、鈍感すぎて複雑に考え込めないだけだと思うのだが。そもそも私は、一度に複数のことを並行して考えられない。


「それって私がただの単純バカなだけなんじゃ……」

「ただのおバカとするのか、強運の天才とするのかは、社会構造によりますよ。でも僕たちエイリアン社会の中では、後者であることは確かです!」

「日本社会の中では?」

「ノーコメントで」

「ぷっ」

「あ、秋月くん。今笑った? 笑ったよね?」


 私達が喋っている間に、ステージから台車に乗せた景品が運ばれてくる。


「おめでとう! お嬢さん、一番乗りの景品はこちらです!」

「お? これは……?」


 え? バケツ……? よく掃除で使う、トタンの銀色バケツ……取っ手にサテン生地のリボンが華やかに飾り付けられている。


「おおっ!」


 バケツが輝いている。いや、正確にはバケツ山盛りに詰め込まれている物が輝いているのだ。そしてそれは、私がよく知っているものだった。


「時間錠! こんなにたくさん!」

「……すげえ」

「はい。一等の景品は、バケツ山盛り三杯分の時間錠です」


 台車に乗っているリボン付きバケツは三個。その中に山盛りいっぱいの、輝く時の結晶が詰まっていた。

 日々時間球収集に勤しむ私達でも、この量を集めるには相当な時間が必要だろう。

 その価値観はエイリアン達ともズレはないようだ。会場内からは、


「すごい!」

「今年の景品めちゃくちゃ豪華じゃん!」

「運営大丈夫か?」


 などと、どよめく声が聞こえてくる。

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