第57話 宇宙時間
そうこうしている間に、ステージではジャズバンドの演奏が始まった。この時期によく耳にするクリスマスソングだ。
「エイリアンもクリスマスをお祝いするんだね」
ハレルヤと歌うエイリアンを見て、私はふと浮かんだ疑問を口にする。
「他の星にも、宗教ってあるの?」
「まあね」
グラスを磨きながらジョージくんが答えてくれる。
「色々だよ。地球の中でもそうじゃない? 信仰は様々。全く信じない人もいるし、楽しいことにだけ仲間に入りたいって人もいる。このイベントなんて、まさにそんな感じだよね」
「そっかあ」
私だってキリスト教徒じゃないけど、クリスマスは浮かれてきたもんな。
「けど信仰を理由に仲間内で殺し合ったりは……こうやって異星にやってこれるだけの
ジョージくんがクスリと笑った。
「君たちを批判してるわけじゃないよ。ただそれだけこの星の人類という種が、まだまだ発展途上ってこと」
「……時間が枯渇したら、発展途上のまま地球はどうなると思う?」
「さあ。僕には分からない」
悪びれない笑顔のままジョージくんは答える。私は秋月くんを見た。彼の視線はホールで踊るエイリアン達に向けられたままだ。ただしその目は、グラサンの丸レンズに覆われていた。
「エイリアンは時間球を一個も落とさねえんだな」
踊り狂う人からも、早口で喋る人からも、一粒も時の結晶は転がり落ちない。
「不思議だよね。こんなに人が大勢いるのに、ずっと見つからないの」
このライブハウスに入った時から気づいていたことだった。誰も時間球を落とさない。朝のラッシュ時の駅と同じような人混みなのに、キラキラ瞬いているのは、時の結晶ではなくて会場の電飾だけなのだ。
「私、人混みって苦手なんだ。皆急ぎ足になれるのに、私は全然ついていけない。息苦しくなる。でもここの人混みは……大丈夫かも。むしろ楽しくなってくるの。きっと誰も急いでないからなんだね」
「……そうか! 悠里ちゃんの中で流れているのは、宇宙時間なんだ!」
ジョージくんが目を見開いて私を見た。
「宇宙時間?」
「僕たちエイリアンの中で流れてる宇宙時間。悠里ちゃんはきっと、地球時間じゃなくて宇宙時間を感じながら生きてるんだよ。そうかぁ。そういうことか」
グラスを磨く手を止めて、ジョージくんは大発見だとばかりに、興奮気味に大きく頷いている。
「一緒にいてとても心地いいのは、そういうことか。八幡さんもしょっちゅう君のこと嬉しそうに話すもんなぁ。悠里ちゃんは
「私、宇宙人モテするってこと?」
「そうだよ! 僕も悠里ちゃんのこと大好きだもん。アブダクションの時からビビッと来てたよ」
「おい、ジョージ」
「あ‼ もちろん秋月くんのことも好きだよ‼ 安心して!」
「……まぁいいか」
秋月くんが苦笑いしてる。ふふ。楽しいなぁ。今日ここに来て良かった。
「ほらほら、二人とももっと楽しんでよ。もう少ししたらビンゴ大会やるよ! はい、これ。ビンゴカード!」
あっと驚く豪華景品を準備したのだという。私はカードの真ん中をぷつりと開けて、エイリアンの景品とはなんだろうと思いを巡らせた。
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