第50話 私を◯◯した宇宙人
――今この人、何て言った?
その時、問いかけようとした私の耳に、聞き慣れた可愛い声が飛び込んできた。
「見つけたー!」
声の半分はテレパシーとして、そして後半部分は肉声として聞こえた。
カラスが頭上から舞い降りてきたかと思うと、着地寸前でくるくる頭の幼児に変わる。幸い、周囲から人の姿は再び消えていた。
「八幡ちゃん」
「あれ、悠里ちゃんも一緒だったんですね」
「え?」
八幡ちゃんは、私を見つけてここへ降りてきたわけではなさそうだ。私の姿を確認すると、意外そうな表情を浮かべて笑った。
「ボク、彼のことを探してたんですよ」
「……この人を?」
私が指し示した男は、ずびずびと不器用にティッシュで顔を拭いている。すっかり赤らんだ目で八幡ちゃんを捉えると、彼は安堵したように表情を緩めた。
「八幡さん!」
「八幡さん……? 八幡ちゃんの知り合い?」
ん? 待てよ。八幡ちゃんの知り合いって、もしかして。
「ドリンクバー取りに行ってる間にいなくなっちゃうんですから。びっくりしましたよー」
「ごめんね、八幡さん。悠里ちゃんに紹介してくれるなんて聞いたら、すぐにでも会いに行きたくなっちゃって」
「君、そういうところありますよね。思い立ったらすぐに動いちゃう。君の良いところでもあるんだけど、話している途中でいなくなる癖は直した方が、もっと素敵だと思いますよ」
「以後気をつけます!」
二人は親しげに言葉を交わしている。幼児と成人男性の組み合わせだが、八幡ちゃんの方が年配者のような会話だった。
「八幡ちゃん、この人もしかして」
「ああ、悠里ちゃん。紹介遅くなってしまいましたね。彼はボクの友達です。ほら、今日はエイリアン仲間と約束があるって言ってたでしょう。彼がその約束の相手だったんですよ」
男が、すっと手を伸ばしてきた。
「……先ほどは、怖がらせちゃってごめんなさい。本当にごめんね。興奮すると、どうも段取りを忘れてしまって」
泣きながらゴシゴシこすっていたので、まだ目元は赤い。しかしすっかり落ち着きを取り戻した声だった。
「これが地球で広く一般的な挨拶だって聞いたんだけど……握手、してくれますか?」
「も、もちろん」
差し出した私の手が、ぎゅっと握られた。男は嬉しそうにぱっと顔をほころばせた。
「はじめまして……じゃないな。お久しぶりです、悠里ちゃん」
「え?」
「覚えてなくて当然だよね。あなたはあの時、よく眠っていたから」
首をひねる私の横で、八幡ちゃんがクスクス笑っている。
「悠里ちゃん、彼は一度悠里ちゃんに会ってるんですよ」
握手の形で繋がれた手に、男のもう片方の手が添えられた。手のひらだけではなく、甲側からも彼の体温が流れ込んでくる。
「アブダクションぶりです。僕はプルプル星人。
ジョージ? プルプル星人のジョージ。
アブダクションの単語に、私ははっとして握手していない方の手で、思わずお腹のあたりを擦っていた。
「私を解剖した宇宙人!」
「ふふ。そうだよ。おかげで無事に課題を提出できました。その節はありがとう」
プルプル星人が、にっこりと笑った。
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