第二章
第21話 焦燥
私達は暇さえあれば時間球の採集をして、時間錠を作った。(そして秋月くんは、私に数学と物理を教えてくれるという約束を、ちゃんと守った。)高三ともなると出席必須の授業は減るので、時間の自由が効きやすい。今までサボることなく、コツコツと単位を稼いできて良かったと思う。
「どうして最近、秋月とよく一緒にいるの?」
「何か弱味でも握られた? 大丈夫?」
友人達を始め、周囲の者が驚くのは、やはり私と秋月くんの距離感だった。そりゃそうだろう。
しかし健全な(?)十八歳の男女の組み合わせなのに、「付き合ってるの?」と訊かれることはただの一度もなかった。口ピアスのモヒカンと地味子の組み合わせでは、そりゃそうだろう。
友人や教師達が心配する点は、ドジな私が秋月くんの癇に障る大失態をやらかしたのではないかということのみだった。私も人のことは言えないが、秋月くんの周囲からの見られ方も大概である。
そんな中、タックだけは違った反応をした。
「渡邉、お前秋月に勉強教えてもらってるんだな。どういうきっかけかは知らんが、良かったじゃないか。しっかりアイツから吸収しとけよ」
意外すぎる言葉に、私が目をまんまるにしていると、中年の数学教師は笑いながらこう続けたのだった。
「知らなかったか。秋月はあんなナリだが、成績良いし案外真面目だからな……国立大目指してるけど、余裕だろう。あいつはな、ただ試験の点数がとれるだけじゃない。頭が柔らかいんだ。教え方も上手いんじゃないか?」
知らなかった。秋月くんはやっぱり、相当な切れ者だ。要領が良い人だ。確かに秋月くんから教えてもらうと、ややこしい数式や物理の問題も、びっくりするほどすんなり理解できるのだった。
くそう。なんだか悔しいような、寂しいような。
秋月くんは全くせっかちじゃないし、私と同類(は言い過ぎかも知れないが)だと思っていたのに。彼がいつも急がずゆったりしているのは、私のように生まれつきの
◇◇◇
「なんか今日、見つけるペースやたら早くないか?」
「そーかな? いつも通りですけどっ」
今日は創立記念日で休校だった。せっかくの平日休みなので、せかせかと時間に追われた人が多そうなビジネス街へと、私達三人は繰り出していた。
「いや、やっぱ早いって」
「そんなことないよー。いつも通りですよー。私だって、これくらいのペース……」
私は次々目に入る時間球を、ポイポイと回収袋の中に放り込んでいく。さすがビジネス街。皆時間に余裕がないんだな、沢山落ちてる。
触れる時間が数秒程度なら、溶ける心配はない。私は光る小石を、素手でどんどんつまみ上げていった。
「おい。悠里。しゃがんだまま移動し続けるな。不審者すぎる」
へんてこりん丸グラサンモヒカン野郎には、言われたくない。
「悠里ちゃん! 悠里ちゃんから時間球排出されちゃってますよ」
「えっ」
「ほら見ろ。お前やっぱり、焦ってるんじゃねーか」
「うそっ。わっ!」
自分から失われてしまった時間球を拾おうとして、振り返ろうとした。その拍子に豪快に尻もちをついた私を、八幡ちゃんが心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?」
「何やってんだよ」
掴んだ手をぐいっと引き上げ、秋月くんが立ち上がらせてくれる。
「……ありがとう」
埃を払い落としながら、私は無意識にため息でもついたのかも知れない。
「休憩するか」
グラサンを外しながら、秋月くんが提案した。目の周りにはやっぱり、うっすらと丸い痕がついていた。
行き交うビジネスマン達が、怪訝な顔で私たちを一瞥していく。オレンジモヒカン男と、どん臭い地味子と、くるくる頭の愛らしい子供(※宇宙人)の奇異な組み合わせの三人組は、明らかにこの場所で浮いていた。
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