第19話 あぶだかたぶら

「そういえば秋月くん。その収集キットは、どこで見つけたの?」


 三人で帰路につく中、私は古びたボストンバッグを指さした。


「あの科学準備室で見つけた。あそこ、ちょっとサボるのにちょうど良くてさ。よく使ってんだ」


 やっぱりサボり常習犯なのか。


「この収集キットは、ボクが仲間のパカパカ星人たちと地球にやってきたばかりのころに、両親から贈られたものなんです。このキットを使って、弟達と時間錠作りを練習しました」

「へえ。じゃあ大切なものなんだ?」

「ええ。それなりに思い出もありますからね。けれどそれだけじゃなくて、これは子供向けに設計されていますが、作りはかなり実用的なんです。もう十分ご存知と思いますが、きちんと時間錠が作れたでしょう? 普通に使えるんですよ。今のボクの姿には、ちょうどいい大きさですしね」


 あ、と秋月くんが少し気まずそうな顔をした。


「……勝手に使って、不便かけたか?」

「ああ。ご心配なく。そんな顔しないでください! あの部屋に置いたのは、わざとなんです。一馬かずまくんに見つかるように、あえてボクがあそこに置いておいたのですよ。説明書も日本語に書き換えたものを入れておきました。ちゃんと読めたでしょ」

「どういうこと?」

「地球人がこの収集キットを見たら、どんな反応をするのか知りたかっただけです。一馬くんは予想以上に興味深い反応をしてくれたので、ボクにしてみたら大満足の結果なんです! まさか素直に説明書に従って時間球を採集して、時間錠を作ってしまうなんて! いやあ嬉しいなあ。おかげで久々に地球人のお友達が出来ました!」


 秋月くんだったからこその結果だろう。おそらくあの科学準備室でこのボストンバッグを発見しても、普通の人なら中に入っているものを使ってみようだなんて、考えないはずだ。


「しかもですよ! まるで導かれるかのように、悠里ゆうりちゃんが一馬くんのところまで時間球を運んだ! これぞミラクル! 運命の奇跡!」


 興奮して手を叩く八幡ちゃんは、踊るようにぴょんぴょんと跳ねた。非常に可愛い素振りなのだが、ぽよぽよと跳ねるくるくる頭を見て、私はあることを思い出した。


「そういえば! ねえ、さっき学校で、あぶだ……あぶ……あぶだかたぶら的なこと、言ってたじゃない? あれって何だったの?」


 自分に関することなので、かなりの重要度だと思うのだが、びっくりする情報ばかり立て続けに頭に叩き込まれたので、すっかり忘れていた。


「アブダクションだろ……あぶだかたぶらって、お前……そこから間違ってんだよ。正しくはアブカタブラだ」

「そうそう! それそれ! あぶらかたぶら!……じゃなくて、アブダクション!……って、一体何のこと?」


 秋月くんは私がツボなのだろうか。よく笑われてる気がする。今だって、肩を大きく震わせながら破顔している。すれ違う通行人が、大柄のモヒカン頭が大笑いする様をチラ見して行った。

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