第10話 時の結晶

 駅に向かう途中、一粒の時間球を拾ったこと。それが手の上で消えた後、遅刻確定だったはずなのに余裕ある時刻に学校に到着したこと。

 休み時間に予鈴を二回聞いたこと。後の一回が鳴った時刻は、前の授業時間中まで遡っていたこと……


 私はゆっくり説明した。そしてその締めくくりを述べる時、机の上で広げられたままになっていた冊子の、ある箇所を指し示した。


「この説明書に、こんなことが書いてある。ほらここ、【時間錠を使う時】って項目のところ……『時間を増やしたい時、止めたい時に効果的に時間錠を使いましょう』……秋月くん、この光る小石は一体何なの?」


 秋月くんは相槌を打ちながら、私の話に耳を傾けていた。時計は見ていなかったけど、結構な時間だったはずだ。授業終了のベルが聞こえて、午前最後の授業開始を告げる予鈴も、とっくに鳴り終えていた。


「まさかとは思うけど、時間を止めたり長くしたりできる道具だなんて……まさかね。はははは」

「そのまさかだって言ったら?」

「え」


 ヘラヘラ笑いを浮かべた私の顔は、そのままフリーズした。


「だから今お前が言った通りの道具だってことだよ。この時間球は、触って溶かした人間の時間になるんだ。なんだ。まさに『時の結晶』なんだよ。時間錠っていうのは、時間球を扱いやすくするために、処理を施したものだ。こうすることで触ってもすぐに溶けなくなるし、黒メガネなしでも見ることができるようになる」


 私の長い話の間に、秋月くんはグラサンを外していた。うっすら顔に痕がついてる。滑稽な絵面のはずなのに、私は笑う気にならなかった。彼の目はふざけたり、冗談を言っている人のものではなくて、まっすぐに私を見る、真剣な眼差しをしていたのだから。


「体感したんだろ? お前の時間が伸びた。だから遅刻しなかったし、予習ができたからタックの小テストも満点が取れた」

「う、うん……」

「なら信じるしかないよなぁ。現に今、目の前にあるんだから。なんならもう一度試してみるか?」

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