第2話 初めての二人っきり

それから2ヶ月が過ぎていった。

それでも兄貴先生とは、距離が縮まらないでいた。

何を話しても会話が続かない。

少しとっつきにくい兄貴先生のことを、ちょっぴり怖がっていたのもあるかもしれない。

あるいは、兄貴先生が変人・アンデココモモの対応に慣れていなかったのもあるかもしれない。


そんな日々が続いた、ある日のことだった。

とあるアウトドア施設で地元の人がライブをするということで、音楽部が前座としてお呼ばれしたのだ。

行きは副顧問の塩顔・犬系のイケメン先生(一斗先生)の車に。

しかし、帰りは楽器を一回で持って帰るために兄貴先生の車へ。

しかも、二人っきりで。

「帰りも一斗先生の車に乗りたい〜!!」

と文句をブーブー言っていた。


そうは言っても、兄貴先生のことだから音楽でもかけるだろう。

気まずくはならないだろう。

そう思っていた。


けれども、兄貴先生は音楽なんてかけずに車を発進させた。


気まずくて、何か話題はないかとあれこれ話してみたが、効果はなかった。

「アンデコさんは、沈黙が苦手なの?」

そう兄貴先生が聞いたので、はいと答えた。

「そうえば、アンデコさんはコンサータ飲んでいる?」

「えっ?! 何で知ってるんですか?!」

私は、ボリュームマックスのアンプのような声を出した。

「だって、アンデコさんに対して、”暑いところにあんまりいさせずに、水分をしっかり取るように”っていう通達が出ているから。」

そんな通達が出ているんだ、と思った。

でも、それ以上に、何でそれだけで薬の名前も分かるの?

っていうか、薬の名前言われていたとしても覚えてないじゃん、普通。

そう疑問に感じていた。

すると、それが伝わったのだろうか。

「僕、昔オーバーワークして友人と共倒れしたんだよね。

その時の友人が、ADHDでコンサータ飲んでいたんだ。

だから、その友人のためにもそういう本を読んでいたことがあって。

自分の場合はカウンセリングだけで直したけど、ADHDっぽいとは言われたしね。」

それからは、発達障害と兄貴先生の友人の話を、二人で静かにした。


気が付くと、学校へ着いていた。

「何か、ありがとうございます。

こういう話もしてくださって。」

私がお礼を言うと、兄貴先生は

「いや、別にいいよ。

”沈黙が苦手”っていうから、話しただけ。」


その後、音楽部の友人が

「兄貴先生とどうだった?」

と聞いてきた。


「いや、特に何もないよ。」

そう答えておいた。


あのことは、兄貴先生と私だけの秘密のような気がした。

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