兄貴先生!!

アンデココモモ

第1話 兄貴先生との出会い

兄貴先生と出会ったのは、高2の春だった。


それは着任式でのことだった。

先生方の紹介が終わり、着任の挨拶を代表の先生がするという流れだった。

挨拶をするのは、国語の男性教員のようだ。

こういう挨拶をするのが、国語教員で良かったという思いだった。

でないと、あくびが出てしまいそうだった。

立っているので、寝落ちする心配はないのだが。

つまんなかったら、いじってやろう。

そんなのんきな考えが、頭を巡らせていた。


だが、そんな考えは一瞬にして打ち砕かれた。

その先生を一言で表すと、「綺麗」。

声の調子、話し方、内容……。

全てが完璧だった。

その上、人としての美しさがにじみ出ていた。

私は、いつの間にか聞き入っていた。

身長が140cmしかなく、後ろの方だったので、その先生の顔や表情は見えなかった。

周りも「あの先生凄いね」という話題で持ちきりだった。

当時、ふんぞり返るくせに何も出来なかった私に、兄貴先生は衝撃を与えた。



そして、私はSHRが終わると廊下を猛ダッシュしていた。

音楽部の主顧問を探すためだ。

音楽部の顧問は全員離任してしまったのだ。

部員とともに、3年生の先生が音楽部の顧問だという情報を聞き、3階へ猛ダッシュする。

「音楽部の主顧問は、誰ですか?」

そう私が聞くと「あっ、僕です。」と声がした。

声がした方を振り向くと、そこには着任の挨拶を代表でしていた先生が立っていた。

軽い自己紹介と、音楽部の新入生歓迎ライブのことが白紙だということを説明した。


そこで、私は初めて兄貴先生のことをしっかりと見た。

目は透明な茶色をしていた。

綺麗だった。

が、それ以上に、やはり人としての美しさがにじみ出ていた。


けれども、その美しさの中に何か哀しみがあった。

「この人は何か抱えて生きているんだな」ということが伝わってきた。

チャップリンの名言に「美しさの中には、必ず悲しみがある」というものがある。

その言葉の意味を、痛感したような気がした。


私はそこにも惹かれた。

「この人は何かを持っている。

私はその”何か”に近付きたい。」

そう思った。

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