第5話 地獄のダブルデート(1)
あれからほんの数日経ったある日の朝。
「ねえ、勇。今日、私の誕生日じゃない?一緒におでかけ行こうよ。お友達も誘ってるの。いいわよね?」
私は絶対に断らせまいと思い、どんどんどんどん押しかけていく。
「ま、まあ、友だちも誘っちゃってるなら仕方ないね。行こうか。」
「友達とコウリンカフェの前で待ち合わせしてるから、そろそろしたら行くよ。」
「わかった。」
今日で、勇に全部吐かせるのだ。そして、離婚届を出して、離婚成立。アイツも会社クビ。他の不倫相手ともおさらばだな。
というか、アイツの持ってるプライド、地位が全てパー。ざまあみろってんの。
「俺は準備できたけど郁恵は?」
うわあ。今郁恵って呼び捨てされて鳥肌立ったわ。他の女も呼び捨てなのに、私も同様の扱いをしないでいただきたいわよ。
「私もできたよ。」
私は勇にそう言うと同時に、あの5人組に「今から家を出ます」とメッセージを送信し、車に向かった。
***
「まだ着いてないみたいね。少し待っていようか。」
「そうだね。ちょっと俺、喉乾いちゃったから自販機行ってくる。郁江はそこで待ってて。」
「わかった。」
この流れも全て計画だ。今くる彼女、夏菜子には少し隠れてきてほしい、と伝えておいたのだ。今のこの流れを見ていたはずだからそろそろ顔を出すはずだ。
お、噂をすれば…
「こんにちは、郁江ちゃん。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。今日の作戦は伝えてあるよね?」
「はい。ばっちり、スマホにもメモしてきました。」
「準備万端ね。頼もしい。」
ここから自販機のところまで、そう遠くはない。恐らくそろそろ戻ってくることであろう。
「ごめんね、おまた…え?」
これだよこれ。この反応がまずは見たかったんだ。そして次に言う言葉は、”なんでここにいるの?”だろう。
「な、なんでここにいるの?」
「この子が友達。まだ友達は来るけどみんなちょっと遠くてね。点々として場所に会う感じかな。」
「な、なるほどね?二人は、友達なんだ…へぇ〜…」
明らかに困っているな。浮気がバレるんじゃないか、と恐れているな。恐れる必要はない。もう全て明らかになっているのだから。
「とりあえず、お茶でもしようか」
「そうだね。ここのカフェって物は安いのにとても美味しくて評判がいいお店だよね。学生さんが多いんだっけ?」
「そうだね。学生さんが8割くらいいたんじゃないかな。」
私達が話していても勇は明後日の方向を見ている。まったくもう…人の話聞いてんのかぁ?
「じゃあ入ろうか。」
私達はカフェに入っていった。
***
「ん〜!美味しかったね。そろそろ時間だし、次の待ち合わせ場所行こうか。」
「そうだね。勇、運転よろしくね。」
「お、おう…。」
次に向かう先は、ここから約30分のところにあるトランポリン公園だ。
トランポリン公園というのは、その名の通りトランポリンがたくさんある公園で、
大人が1時間400円、子供が1時間200円というお手軽な運動広場みたいなものだ。駐車場もたくさんあるので、ちょっとおでかけに家族で仲良く遊ぶのにぴったりだというレビューがある。私達の世代では、そのトランポリン公園を知らない人はそうそういないほど有名な場所だ。
「着いたよ。」
「ありがと〜!ここで二人待ち合わせしてるんだよね。」
「ま、また友達?」
「うん。沙奈恵と理奈って子。」
「へ、へぇ〜…」
どんどん表情が曇るねぇ〜いい気味だわ。このまま地獄に突き落としたいけど、もう少し苦しめてから一気に全員で落としましょ。
「あ!郁江ちゃん!」
「こんにちは沙奈恵ちゃんと理奈ちゃん。」
「あ、もしかして郁江ちゃんの旦那さんですか?いつもお世話になってまーす!」
「ちょっと、どの口が言ってんのよ(笑)」
もう分かると思うが、こんなの二人の迫真の演技だ。二人は昔演劇部に入っていたらしいのでその演技力を本番で発揮してほしいと言ったら喜んでと言われたので頼んだのだ。
「トランポリンするの、何年ぶり?それとも、人生初?」
「私は初かも〜郁江ちゃんは?」
「私は久しぶりだけど何年ぶりかはわからないなぁ〜。勇は?」
私がいきなり話を振ると、勇はすごく驚いた顔をしていた。まあそりゃそうよね。
バレないかヒヤヒヤしているでしょう。
「お、俺も久しぶりだなぁ〜ははは…」
そんな素っ気無い感じの返事が返ってきた。勇にしてはまだ冷静を装っている感じね。中々にすごいじゃない?
「ほら!受付しよ!今日はゴメンだけど割り勘でオネシャス!」
「「りょうかいでーす」」
私達が声を合わせて言った時、勇も少し遅れて、
「りょ、りょうかいでーす…」
と言った。これ以上人が増えたら、勇はどんな反応をするのか、楽しみだわね。
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