第7話
小学六年生の登校拒否事件はその後何事もなく終わったので、今まで何も話さずきた。今なら登校拒否の理由を教えてくれるかもしれない。
「ねぇ、あの時、何が原因で学校行かなかったの?」
頼子の問いに息子は少し考えた。手に持っっていた写真を置き、頼子の方にしっかりと向いた。
「父さんには実は言ったんだ。でも母さんが傷つくかもしれないから、話さないで欲しいってお願いしたんだ。ちゃんと守ってくれてたんだな」
頼子は夫が知っていたことに驚く。ただ、納得もした。彼は約束を守る人だから。彼が内緒にすると約束するということは墓までその秘密は守られる。
「お父さんは約束を守る人だから」
息子は頷く。
「学校に行かないって言い始めた前の日に、俺同級生に言葉のことで揶揄われたんだ。俺、あんまり方言ないだろ?母さんと話すことが殆どだしさ。それで、方言じゃないって気取ってるって言われてさ。それにすごく腹が立って、母さんのことも馬鹿にされてる気になって…。それで、学校行くの嫌になったんだ。あの時、何度も理由を聞かれて、それでも答えなくて、結局、最後は母さん何も言わずに毎日学校に休みの連絡入れてくれてただろ。なんかさ、嬉しかったんだ。母さんが弱って行くのは嫌だったけど、学校行かない俺のこと受け入れてくれただろ?で、極め付けが後楽園に一緒に行った事。あの経験はさ、すごいよ。俺はどんなにダメになっても肯定してくれる人間がいるって、なんかさ、思ったんだよね、後楽園で。で、そしたら、揶揄われたこともどうでもよくなってさ。で、学校に行くことにしたんだ」
登校拒否の理由が言葉だったなんて知らなかった。頼子は息子の気遣いに感謝する。きっとあの時にそのことを知ってしまったら、頼子は自分をもっと責めていただろう。なぜか、岡山に来て暮らし始めて二十三年経つ今も方言は身に付かなかった。特に意識していた訳ではない。
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