3章

第6話

 先日、結婚式後に息子一人で実家に来た時、頼子は息子に言った。

「本当にさつきさんのこと好きよね。和正は、それを隠さないでしょ。ちょっと恥ずかしくなるわ」

 息子はリビングダイニングの写真の飾られたコーナーの前に立っていた。頼子と夫が後楽園で和装姿で撮った写真を手に取りながら軽く悪態をつく。

「はぁ?俺は父さんに似たんだよ。父さん、母さんには甘いよね。結構、思春期の頃は恥ずかしかったけど?母さん気づいてなかったの?」

 頼子は目を見開いた。夫が最初から頼子に優しいことはわかっていたが、結婚して、岡山に引っ越し、家業を継いでから忙しくなり、あまり構われていないと思っていた。甘やかしてくれているのは何となく分かっていた。家事と育児と仕事を両立するのが難しいと思っていた頼子を専業主婦で居られるように動いたのは夫だった。頼子の実家からも夫は守ってくれた。しかし、息子にまで、父は母に甘いと認識されていたことに驚いた。

「何が恥ずかしかったの?和成さん、私に甘いかしら?」

 息子は手に持っていた写真を息子の中学の入学式の写真に変えた。親子三人で中学校の前で撮った写真をジッと見ながら彼は話した。

「母さん、そもそも、親が名前で呼び合ってる家って殆どなかったよ。二人で時々デートもしてただろ?それに父さんに母さんのこと傷付けるなって言われたことあるし…。まぁ、一番凄いなって思ったのは、小六の時、俺が登校拒否してる時に母さんが弱って行ってるのが分かって、でも、俺もどうすればいいか分からなくて…、学校には行きたくなかったし、どうしようかと思ったら、父さんが母さんに後楽園行っておいでって言ってただろ。で、母さん、後楽園行くようになって、すごい変わって。父さんは母さんのことすごい分かってるんだって思ったんだ」

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