第3話
息子と二人で散歩した後楽園は最高だった。息子が小さな頃は何度も二人で訪れた。小さな息子の手をひき、時々膝をおり、息子の目の高さに合わせて話をした。そんな小さな頃の思い出とはまた違った時間だった。頼子と息子の背丈は、同じくらい。もう手を繋いで歩くことはないし、頼子は膝を折って目を合わせることもない。しかし、肩を並べて歩くその瞬間は頼子の宝物となった。
二度ほど、後楽園へ二人で散歩した次の日。突然、息子が「今日から学校行ってくる」と言った。二人で笑いながら鯉に餌やりをしただけだ。唯心山に登ってボーと景色を眺めただけだ。それでも、それが良かったのかもしれない。それからは何事もなかったように学校に復帰した。
今でも分からない。なぜ彼があの時学校に行かなかったのか。ただ、あの出来事で頼子は当たり前が本当は当たり前ではないのだと知った。日常はある日突然失われるかもしれない。それでも世界は回っていく。そういうことだ。
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