第23話【赤魔道士】は2時間ごとに休憩する

 窓から射し込む朝日に目を覚ますと、俺ひとりがベッドに残されていた。

 軽く身支度を整えてダイニングへいくと、ちょうどプリシラが朝食の配膳を終えたところだった。

 

「ごきげんよう、レオン」

「お、おはようございますです、師匠……」


 俺に気づいたリディアとプリシラが、声をかけてくる。


「おう、おはよう、リディア、プリシラ」

 

 軽く挨拶を返しながらも、なんだか落ち着きのないプリシラの様子に、昨夜のことを思い出してか俺も少し照れてしまう。


 ミリアムさんとエメリアはすでにギルドへ向かったようだ。

 朝食はエメリアが用意してくれたのかな。


「いただきます」


 食事をはじめたが、とくに会話らしい会話はなかった。

 プリシラはちらちらと俺を見ては、目が会うたびに視線を逸らすという挙動不審な様子で、俺もどう反応していいのかわからず、とりあえず食べるのに集中した。

 そんな俺たちを見てリディアは微笑むも、とくになにかを言うわけでもなく優雅に食事を続けている。


 会話はなかったけど、不思議と気まずくはなかった。

 なんというか、すごく穏やかな朝食なんだよな。


 大ボスだなんだと街は大騒動だけど、そんなのとは無関係みたいに静かな食卓に、俺はなんだか幸福感を覚えていた。



 準備を整えた俺たちは、いつものようにミリアムさんのもとを訪れた。


「おはよう、ミリアムさん」

「レオンくんおはよー」


 軽く挨拶を交わしたあと、ミリアムさんは俺の隣にいたリディアに目を向ける。


「リディアさん、例のアレ、準備できたわよ」


 例のアレ?


「昨日の今日で実現とは、さすがミリアムさんですわね」

「いえいえ、リディアさんが領主に直談判してくれたからよ」


 どうやら昨日、俺が先に帰ったあとの女子会で、なにかが決められたらしい。


「それじゃさっそく案内するわね」


 ミリアムさんはそう言うと、受付停止の札を台に置き、立ち上がった。


「というわけで、しばらくお願いね」

「嘘でしょミリアム、このクソ忙しい時間に!?」


 ミリアムさんがそう声をかけると、隣にいた地元民らしい受付嬢が目を見開いてそう応えた。


「ごめんなさいねぇ、これも専属の大事な仕事なの」

「ぐぬぬ……ちくしょうめぇっ!!」


 目を血走らせてミリアムさんを睨むお隣さんに、奥で雑務をしていたらしいエメリアが歩み寄る。


「こらこら、落ち着きなさい。私ができるだけサポートするから、がんばりましょう。ね?」


 エメリアがそう声をかけると、お隣さんは表情を緩めて彼女に抱きついた。


「あはーん! おねえさまぁー! たよりにしてますぅー!!」

「はいはい、いい子いい子」


 エメリアはお隣さんの頭を撫でてやりながら、ミリアムさんと視線を交わす。

 お互い苦笑混じりに頷きあったあと、ミリアムさんは受付台を離れて俺たちに合流した。


「それじゃ、いきましょうか」

「お、おう」


 俺はまだ状況をよく飲み込めないながら、ミリアムさんに続いて歩き始めた。


「エメリア、なんだか頼りにされてるみたいだね」

「ええ、すごく優秀なのよ、あの子。【受付嬢】じゃないから冒険者の対応はできないけど、裏方の雑務とかなんでも器用にこなしてくれてね」

「へええ、そうなんだ」

「どうせなら【受付嬢】にならない? って誘ってみたんだけど」

「その言い方だと、断られたかな?」

「うん。〝レオンたちに美味しいご飯を作るのが私の役目だから〟ってさ」

「あはは、そりゃ嬉しいね」


 そんな話をしていると塔の入口に到着したので、俺たちは11階へ転移した。


「あれ、そういえばミリアムさんって、直接11階に転移できるんだね」

「ギルド職員系のクラスには、いろいろと特権があるのよ」

「なるほど」


 11階に到着した俺たちは、そのあともミリアムさんの案内で砂浜を歩いた。

 海とは反対側の岩場のほう、砦のような拠点の一角へ辿り着くと、ミリアムさんは足を止めた。


「着いたわ。ここよ!」


 そこは岩場の陰にある、小部屋のような場所だった。

 拠点の中心からかなり外れた位置にあるので、周囲にはほとんど人影もない。


「ここよっていわれても、俺にはなにがなんだか……」

「あれ、レオンくんなにも聞いてないの?」


 ミリアムさんは首を傾げて俺を見たあと、リディアとプリシラに目を向けた。


「あら、わたくしてっきり、プリシラから聞いているものとばかり思っておりましたわ」

「ん、なんの話だ?」


 3人の視線を受けたプリシラが、申し訳なさそうに身を縮める。

 

「あぅ……ご、ごめんなさい、わたし……昨日は、その、途中で気を失っちゃったです……」

「あらぁ」

「うふふ、それなら仕方がないですわね」


 プリシラの言葉に、ミリアムさんとリディアは少しからかうような表情を浮かべてそう言った。


「で、結局これってなに?」


 なんだか俺まで気恥ずかしくなったので、ごまかし半分にそう尋ねた。


「これはね、『極志無双』専用のよ」


 質問には、ミリアムさんが答えてくれた。

 休憩室って、わざわざそんなものを用意してくれたのか?

 ギルドが?

 いや、リディアが領主にかけあったとか言ってたから、そっちも絡んでるのか?


「わたくしたちが本領を発揮するためには、レオンが【賢者】になる必要がありますでしょう?」


 いや、それはそうだけど……。


「えっ、じゃあこの休憩室って……」

「うふ、そういうこと」


 ミリアムさんが少し頬を染めながらにっこり笑って答える。


 つまりこれって、俺たち専用のヤリ部屋ってことかよ!


「いいのかな、こんなの用意してもらって……」

「問題ないわよ。レオンくんたちはそれだけの戦果を上げてるもの」


 聞けば拠点設営のため多くの職員が塔に入っており、現場を監督する傍ら討伐の様子も確認しているらしい。


 とくに一昨日の賢者タイムでリディアとともに戦った様子は、ギルド内でもちょっとした話題になったそうだ。

 それで昨日、多くの職員が俺たちの戦いを見ていたようなのだが、プリシラを加えて3人になったにもかかわらず、リディアとふたりのときより戦果が少なかったことに、疑問を抱かれたらしい。


 そこで詳細は隠しつつも、俺たちには他人に見られず休憩できる場所が必要だということを、ミリアムさんはギルド上層部に、リディアは領主夫妻に訴えたそうだ。


 その結果、このヤリ部屋が用意されたということだった。


「それで、その……最初はあたしに、譲ってもらってもいいかしら? 最近ご無沙汰だし……」


 ひととおりの説明を終えたあと、ミリアムさんはリディアとプリシラを交互に見ながらふたりに尋ねた。


「ええ、問題ありませんわ。わたくしは一昨日いたしましたし、このあとできますので」

「わ、わたしも、昨夜してもらったばかりですから……」


 というわけで、ふたりには念のため見張りをしてもらい、俺とミリアムさんは休憩室に入った。


「あはは、すっごいシンプル……」


 壁が鎧戸のように外の灯りを取り込める作りのおかげで、照明はないものの室内は薄明るい。

 天井は軽く手を伸ばせば届くくらい低く、床には大人ふたりがかろうじて並んで横になれる程度のマットレスが無造作に置かれているだけで、他にはなにもなかった。

 部屋の大きさは、そのマットレスがあとひとつ並べられるかどうか、という程度の広さしかない。


 ただただ寝るためだけの部屋、という感じだ。


 中から外はかろうじて見えるが、外から室内をのそ着込むことは不可能だろう。

 入口のドアを閉めると、さっきまで聞こえていた外の戦闘音が、まったく聞こえなくなった。


「ここね、防音処理がされてるの……」


 外から光が差し込み、風の流れもあるのに、音が遮断されるっていうのはなんだか不思議な感じだ。


「だから……激しくして?」


 俺は求められるまま、ミリアムさんの身体を堪能した。


《条件を満たしました。賢者タイムを開始します》



「ねぇ、どうだった?」


 衣服を整え、外に出たミリアムさんは、見張りをしていたリディアたちに尋ねた。


「わたくしは聞こえませんでしたわ」

「わたしは、ちょっとだけ……」


 耳のいい兎獣人のプリシラには中の音が微かに聞こえたらしく、彼女は顔を赤らめながら答えた。


「このあたりに近づく人はいないでしょうし、プリシラにしか聞こえなかったなら問題ないわね」


 ミリアムさんからの合格が出たので、今後俺たちはこの休憩室を有効活用させていただくことになった。


「それじゃわたしはミリアムさんを転移陣まで送っていくです」

「みんな、がんばってね」


 プリシラとミリアムさんを見送った俺たちは、海岸に向かって駆けだした。

 モンスターの討伐を始めて10分ほどあとに、プリシラも合流した。


 2時間後にはリディアと、さらに2時間後にはプリシラとセックスをし、俺たちは全力でモンスターを狩り続けるのだった。


《賢者タイムを終了します。おつかれさまでした》

   

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