第22話【赤魔道士】弟子と次の段階に進む
翌日。
塔に入ると、昨日のいやな視線は感じなくなった。
やっぱり、気のせいだったんだろうか。
「師匠! リディアさん! よろしくお願いしますです!」
今日からプリシラが同行することになった。
大ボス戦を控えて激務になったミリアムさんをエメリアがサポートすることになり、護衛が不要になったためだ。
「よろしくお願いしますわね、プリシラ」
「あんまり気負わずに、がんばろうな」
今日は11階での討伐作業を要請された。
サハギンの出現数は12階と変わらないか、むしろ多いくらいのようだ。
「それにしても、拠点って立派なものを作るんですねー」
プリシラが岩場のほうを見ながら、感心したようにそう言った。
そういえば昨日、12階でも拠点らしきものが作られているのを見たが、それは岩場に近い砂浜に大きめの
対してこの階の拠点は、切り立った崖のような岩場を土台に作られた、ちょっとした砦のようになっている。
つまり、こちらが本拠店ということなのだろうか。
「やっぱり12階に出るのかな、大ボス」
「過去の例からみて、そう考えるのが妥当なようですわね」
そう応えたリディアだったが、あまり納得した様子じゃなかった。
○●○●
その日の討伐作業も順調に進んだ。
プリシラがいるので賢者タイムは使えないが、それはしょうがないことだからな。
「そういえばレオンは大ボス戦で【賢者】になりますわよね?」
その日の作業が落ち着いたところで、リディアがそう尋ねてきた。
プリシラも賢者タイムについては聞かされているようで、なんだか気まずそうに目を逸らしている。
「ああ、できればそうしたいな」
大ボスともなれば、レベルアップのいい糧になるだろうからな。
できれば【賢者】になっておきたい。
「かなりの長丁場になるようですが、そこは問題ありませんの?」
聞けば大ボス戦というのは、何日もかけておこなわれるものらしい。
集められた冒険者や防衛軍は昼夜を問わず交代で戦い続けるのだとか。
そんななか、賢者タイムの2時間だけ戦って戦線離脱っていうのも難しいか。
「まぁ、折を見てわたくしもできるだけ協力はいたしますが……」
リディアほどの実力があれば、最前線に立つことは間違いないだろう。
そんな彼女と2時間ごとにセックスをするというのは、現実的じゃないかもなぁ。
「まぁ、状況をみて対応するしかないだろうね」
経験がないから、どうなるのかがわからないんだよな。
拠点に戻る隙があるなら、エメリアやミリアムさんに待機してもらって……なんてこともあるかもしれないし、そのあたりのことは一度ちゃんと話しておくべきかもしれない。
そうこうしているうちに帰還用の転移陣に辿り着いた俺たちは、塔を出てギルドに戻った。
「レオンは先に帰って休んでおいてくださいませ」
ギルドにつくなり、リディアにそう言われた。
「リディアたちは?」
「わたくしとプリシラは今日の戦闘を振り返りつつ、今後の戦い方などについて話し合いますわ」
リディアはそう言っているが、プリシラはあまり彼女の意図を理解していないのか、困ったように俺と彼女を交互に見ている。
「いや、そういうことなら俺もいたほうが……」
「女性メンバー同士で話したいこともあるのですわ」
「あぅ……」
リディアに抱き寄せられたプリシラが、戸惑いを露わにしつつ身を縮める。
「いや、まぁ、そういうことなら……」
なにかしら考えがあるようなので、俺はリディアの言葉に従うことにした。
帰り際にミリアムさんとエメリアのところへ顔を出すと、ふたりとも帰りが遅くなるとのことだったので、俺は道すがら適当に寄った酒場で食事を済ませ、ひとり家に帰って休んだ。
○●○●
その日の夜。
「レオン、ちょっといいかしら?」
ベッドに寝転がってうとうとしていたところへ、エメリアが訪ねてきた。
「どうぞ」
俺が応じると、ドアが開き、エメリアが顔を見せた。
シースルーのネグリジェを着ているので、いまからするのかな。
「エメリア、どうし――」
エメリアに声をかけたところで、彼女に続くプリシラの姿が目に入る。
「――プリシラ!?」
なんとプリシラまで、シースルーのネグリジェを着ていたのだ。
「し、師匠……こんばんわ、です……」
プリシラは恥ずかしげに胸を隠し、身を縮めながら部屋に入ってきた。
「今日はね、レオンにお願いがあってきたの」
呆然とする俺を気にすることなく、エメリアが言う。
「お願い?」
「そう。この娘を抱いてあげてほしいのよ」
エメリアはそう言って、プリシラの背を軽く押した。
「あぅ……」
プリシラはあいかわらず恥ずかしげな様子で、軽くよろめきながら前に出る。
「いや、急になんで?」
「いつかはお願いしようと思ってたんだけどね。いい機会だから」
「いや、いい機会って、なに?」
「大ボス戦が近いでしょ? だから」
大ボス戦の最中に賢者タイムが切れた場合、リディアだけでなくプリシラともできたほうがいいだろう。
ならばその前に、プリシラと経験しておくべきだろう、との考えから、エメリアは彼女をここに連れてきたのだという。
「リディアさんやミリアムとも話し合った結果よ」
いや女性メンバーだけでなんの話をしてるんだよ……。
「わ、わたし、師匠のお役に立ちたいです……!」
さらに一歩前に出たプリシラは、胸を隠していた腕を外し、スケスケの生地に覆われた身体を晒しながら、力強くそう言った。
ただ、覚悟は決まったものの、恥ずかしいのはどうにもならないようで、顔を真っ赤にして目を泳がせているけど。
「いや、でも……」
いきなりそう言われても、はいそうですかと弟子を抱いていいものだろうか……。
「し、師匠は……わたしとするの、いや、ですか……?」
そんな俺の迷いを察したのか、プリシラは不安げに目を潤ませながら、俺にそう尋ねた。
「いや、そんなことはない。プリシラみたいに魅力的な女性とできるなんて、嬉しいに決まってるじゃないか」
彼女が覚悟を決めているんだ。
なら師匠として、なによりひとりの男性として、それに応えなくちゃな。
「あぅ……魅力的……わたしが……」
俺の言葉が恥ずかしかったのか、プリシラはさらに真っ赤になった顔を覆った。
「うん、話しはまとまったみたいね」
俺とプリシラの様子を見守っていたエメリアは、そう言うと俺の手を引いてベッドに向かった。
「それじゃ、まずは私がお手本を見せるから、プリシラはしっかりと見ておくのよ」
「えぇっ!?」
ちょっと待ってくれ、お手本を見せるって、プリシラに見られながら、エメリアとするってこと!?
「わかりましたです! おふたりの勇姿をしっかりとこの目に焼き付けるです!!」
いやプリシラも変な方向に気合い入っちゃってるし……。
「それじゃレオン、よろしくね」
「ああ、うん……」
どうやらここは、覚悟を決めるしかなさそうだ。
それから俺は、プリシラに見守られながらエメリアとの一戦を終える。
人に見られながらっていうのは、なんともいえず興奮するものだった。
《条件を満たしました。賢者タイムを開始します》
「あの、ししょー……おねがい、しますですぅ……」
そして今度はエメリアに見守られ――ときにサポートされ――ながら、プリシラとの行為をを終えた。
賢者タイムに入ったおかげで回復魔法なんかも使えたのは、プリシラにとって良かったと思う。
「はぁ……はぁ……わたし、はじめてがししょーで、すごく嬉しいです……」
どうやら彼女は、娼館にいたころも客を取ったことがなかったらしい。
「うふふ……じゃあそろそろ、私も交ぜてもらおうかしら」
そのあとはエメリアを交えての激しい行為が繰り広げられた。
「はふぅ……ししょぉ……わたし、ししょーに出会えて、しあわせれすぅ……」
初体験ながらも数時間に及ぶ3Pを終えたプリシラは、恍惚とした表情を浮かべたまま意識を失った。
「レオン、ありがとね、プリシラのこと」
プリシラが眠り、落ち着いたところでエメリアが話しかけてきた。
「お礼を言うのは俺のほうだと思うけど」
「うふふ、そうかもね」
エメリアがこういう機会を作ってくれたおかげで、俺はプリシラというかわいらしい女性とセックスできたわけだし。
「この娘ね、ちょっと危うかったから」
プリシラは貧しい家庭の事情で、あの店へ入った。
簡単に言えば、口減らしのために売られたのだ。
「よくある話ではあるんだけど、そういう娘って、自分の価値を低く見がちなのよ」
必要じゃないから売られた。
そう考える女性は、案外多いのだとか。
「そういう娘が変な客に当たるとね、悪い意味でハマっちゃうのよ」
誰からも必要とされていなかった自分が求められた。
この仕事をしていれば、このお客さんからは、自分は誰かに必要とされる。
そうやって行為や客との関係に依存してしまう。
そこにつけ込んでロクでもないことをやる客もいるらしい。
それにいつまでも続けられる仕事じゃない。
娼館を辞めたあと、どう生きていいかわからず、身を崩す人も多いのだとか。
「だから、信用できそうな人が現れるまでは、お客を取らせなかったのよ」
プリシラが娼館に勤めながらこの歳まで処女だったのには、エメリアの意図が絡んでいたらしい。
「で、そのいい人が俺だって?」
「うふふ、そういうこと。レオンくんだって、いつかはこうなるって思ってたんじゃない?」
「それは、まぁ……」
どう考えても、時間の問題ではあったよな、うん。
その機会が、いまだったってだけで。
「でも、本当に俺でよかったのかな」
同じパーティーだから、作戦の都合上仕方なく。
そんな流れでプリシラを抱いてしまって、よかったのだろうかと、いまさらながら申し訳なく思ってしまう。
まぁ冒険者である以上、流れで身体の関係を持つなんてのは、よくあることだけどさ。
「本当は好きな人と、ちゃんとしたかっただろうな」
「あら、プリシラはちゃんとレオンくんのこと、好きよ?」
「えっ?」
エメリアの言葉に、思わず声を上げてしまう。
「いや、でもそれは、弟子として師匠を敬うとか、そういう……」
「ちがうちがう。プリシラはひとりの女性として、レオンくんに恋愛感情を抱いてるわよ。気づいてなかったの?」
「あー、なんとなく好意みたいなのは感じてたけど、師弟愛の延長くらいにしか……」
プリシラはいったいどのタイミングで、俺のどこに惚れたっていうんだ?
「はじめて塔に入ったとき、レオンから〝俺が守ってやる〟 て言われて、キュンときたんだって」
「あー……」
なんとなくそのときの状況を思い出しながら、寝息を立てるプリシラを見た。
安心しきった、かわいらしい寝顔だ。
「いや、チョロすぎるだろ」
「ね、危なっかしい娘でしょ?」
確かに、変な客にコロッと騙されそうな危うさはあるな。
でもまぁ、もう俺がそばにいるし、彼女自身強くなったので大丈夫だろう。
「だから、これからもよろしくね、この娘のこと」
「おう」
俺の返事を聞いたエメリアは、ニコリと笑ったあと、俺に抱きついてきた。
「もちろん、私のこともね……んむ」
彼女は俺の返事を聞く間もなく唇を重ねてきた。
それから俺たちはプリシラを起こさないよう、ゆっくりと静かに身体を重ね合うのだった。
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