第20話【赤魔道士】は領主夫妻に出会う
「なんというか、お若いのに領主とか、すごいですね」
見たところ俺と変わらない年頃なのに、大変そうだな。
「いや、そーなんよ。オヤジがぽっくりイッちまってさー。歳の離れたねーちゃんはいるんだけど、冒険者んなって出てっちまってオレしかいねーって感じ? マジしんどいんだけどしゃーないよね」
あっけらかんと答えるアレックスさんだけど、領主ともなれば俺なんかにはわからない苦労がいろいろありそうだ。
「ねーねーディアっちってば、いまも【姫騎士】やってる感じ?」
ジーナさんが、興味深げな表情で尋ねてくる。
「いえ、ついさきほど上級職の【女王騎士】になったばかりですわ」
「なにそれー!? 超レアっぽいんですけど!」
「マジ聞いたことねークラスじゃん」
文字通り前代未聞のレアクラスだからな。
「おふたりはいかがですの?」
「あーしは普通に【魔導師】だよん」
【黒魔道士】の中級職だな。
そういやヨットからバンバン魔法撃ってたわ。
となると、アレックスさんも戦闘スタイルは似てたし、似たような感じかな。
「オレは【魔法剣士】だなー」
えっ、【魔法剣士】だって!?
……と驚いていたら、アレックスさんが俺を指さしてニヤっと笑う。
「そのザ・赤魔道士ってスタイルからして、レオンも【魔法剣士】じゃね?」
「ダーリンも最初は【赤魔道士】だったもんねー」
「いや、俺は……」
そう、【赤魔道士】には中級職がないと言われているんだけど、稀に【魔法剣士】へクラスチェンジできるのだ。
俺もそれを期待していたんだけど……そうはならなかった。
「もしかして上級職の【魔導騎士】的な?」
「いや、俺はまだ、なんというか……」
「秘密ですわ」
俺が答えあぐねていると、リディアがそこへ割って入った。
「秘密?」
「ええ、レオンのクラスは秘密ですの。ただ、Bランク冒険者ということはお伝えしておきますわ」
リディアはそう告げたあと、口元に笑みを浮かべながらちらりと目配せしてきた。
そうだった、俺はもう初級の【赤魔道士】じゃなく特級の【賢者】で、それは秘匿するべきことなんだよな。
そのあたり、ちゃんと慣れておかないと。
「秘密……」
リディアの言葉に軽く目を見開き、俺を見つめる領主夫妻。
「うぇーい! それってちょーかっけーじゃん!!」
「まじミステリアスなんですけどー! レオっちカッコいー!!」
と、なぜか大はしゃぎとなった。
なんというか、愉快な夫婦だなぁ……はは。
「ところでアレックス、あの船ですが、やはり大ボス戦に向けてのことですの?」
リディアが、場の空気を変えるようにアレックスへ尋ねる。
「そーそー。ありゃ予備って感じだけどね」
聞けば11階に3隻、12階に8隻、13階に5隻の船を用意していて、それで大ボスを迎え撃つようだ。
船には冒険者を敵の元まで運ぶという役割があるのだが、大砲やバリスタなんかが搭載されているので、大型船自体にもかなりの戦闘力がある。
作戦としては、大型船で接近しつつ兵器による攻撃を加え、ある程度近づいたところで弓矢や魔法による遠距離攻撃が始まる。
さらに進んだあたりで搭載しているヨットやボートを出し、直接攻撃を仕掛ける、という流れみたいだ。
海上戦の場合、大ボスへの攻撃は遠距離攻撃がメインになる。
なので近接戦闘職の多くは、大型船に取り付いてくるサハギンなどのザコを蹴散らす役割を担うことが多いらしい。
「やはり12階に大ボスが現れると予想されてますのね?」
「そーゆーこった。ここの船はいざというとき12階へ持っていくための予備ってわけ」
「持っていく、とはどういうことですの?」
「そのまんまの意味だけど? あの船をえんやこらーって引っ張って、転移陣に乗っけんの」
「……あの大きさのものも、転移できますのね」
俺もそれははじめて知ったよ。
やっぱ塔ってすごいんだな。
「一応確認なのですが、11階に大ボスが現れるとは、考えておりませんの? 肌感覚として、11階と12階とでサハギンの数がそれほど変わるとは思えませんわ」
それは俺も気になってたんだけど、若い領主夫妻はきょとんとしたあと互いに顔を見合わせる。
「だははははっ! 11階に大ボスとかちょーウケっし!!」
「きゃははっ! ほんと、ディアっちマジおもしろいんですけどー!!」
なんだか大爆笑してしまった。
「もうしわけございませんわね。クヴィンの塔には大ボスが出ませんので、そのあたりの感覚がわかりかねますわ」
笑われたリディアは特に気にする様子もなく、苦笑して肩をすくめた。
普通に考えたらすごく失礼なことをされたはずなんだけど、アレックスさんたちのキャラクターのせいか、あんまり悪い感じはしないのが不思議だ。
なんていうか、バカにしてるというより、本当におかしくて笑ってるみたいな感じだし。
「いやー、転移陣のある階に大ボスは出ないんよ、じょーしき的に考えて」
「でもさー、せっかくディアっちが忠告してくれたんだから、無視するのも感じ悪くない?」
「たしかにー! とりあえず11階も警戒しとくようオジキに伝えとこっかなー」
オジキ……?
「前領主の
俺の疑問を察したのか、リディアが補足してくれる。
聞けば、とても優秀な補佐官だという。
「オジキってばマジ優秀だかんね。オヤジが死んだときも、オジキが後継いでくれりゃオレも楽できたんだけどなー」
そこでアレックスさんは、急に真面目な表情を浮かべる。
「私は、人の上に立つ器ではございませんので」
「きゃはーっ! 似てるーっ!!」
どうやらオジキさんのものまねらしい。
アレックスさんは言い終えると、すぐに表情を緩めた。
「つーわけで、オレらいったん戻ってオジキに進言してくるわ」
領主が補佐官に進言って、なんかおかしいような……まぁ、いいか。
「あっ、そーだ! リディアさー、ねーちゃんのこと、アニキからなんか聞いてない?」
歩き出そうとしたアレックスさんが、思い出したように口を開いた。
「いえ、バルト兄さまからはなにも窺っておりませんわ」
「そっかー。ま、どうせどっかの塔をフラフラしてんだろーなー」
アレックスさんはそう言い残して、去っていく。
「ディアっち、レオっち、またねー」
ジーナさんもそのあとに続いた。
「リディア、アレックスさんのお姉さんって?」
2人が去ったあと、気になったので尋ねてみた。
「ウェンディさまのことですわね。バルト兄さまのパーティーに所属されていたのですわ」
「なるほど」
「おそらくソロで活動されているのでしょうが……念のためバルト兄さまに手紙を送っておきますわ」
ウェンディさんとやらのことをリディアが尋ねる理由もなかったし、尋ねなければバルトさんだってなにも言わないだろう。
だから、ちゃんと聞けば答えは返ってくるかも知れない。
「はぁ……それにしても」
ふと視線を動かすと、きゃっきゃとはしゃぎながら転移陣へと歩いていく領主夫妻の背中が見えた。
「どうなさいましたの、レオン?」
「……いや、なんでもないよ」
同じ【赤魔道士】でありながら【魔法剣士】になれたアレックスさんとなれなかった俺に、どんな違いがあったのだろうか。
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