第13話【赤魔道士】は海岸を駆け抜ける

 12階に入った俺たちは、目の前の光景に唖然とした。


「人、多くない?」

「それにモンスターも、多いですわね」


 広い砂浜のあちこちで、戦闘が繰り広げられていた。


 砂浜エリアはどこも右手が海で、左手が岩場になっており、奥に向かって進んだ先に、次の階への転移陣がある。

 どの階も駆け足で30分、徒歩で1~2時間の距離だそうだ。


「海からのモンスターか」


 海側と岩場側で出現するモンスターが異なるのだが、みたところ海から半魚人のようなものが次々に現れていた。


「サハギンですわね」


 海の定番モンスターだ。


 強さはリザードマンくらいといわれているが、海中から魔法を撃ってくるので、海に近い場所で戦うのは避けたほうがいいんだったよな、たしか。


「むぅ、さっさと駆け抜けるつもりでしたのに……」


 リディアが不満そうに呟く。

 当初の予定ではどこかの岩陰で賢者タイムに入り、さっさと進む予定だったんだけど、これだけ人やモンスターがいるとそれも難しい。


「残念だけど、いくしかないね」

「ですわね」


 互いに肩をすくめたあと、自分とリディアにいつもの支援魔法をかけ、走り出す。


「キシャーッ!」

「ジャジャジャッ!!」


 各所で戦闘を繰り広げる冒険者たちの合間を縫って、サハギンどもが襲いかかってくる。


「おーっほっほっほっ! 甘いですわー!!」


 リディアが走りながら斧槍を振るうと、数匹のサハギンがまとめて両断される。

 彼女は先を進みながらも位置やタイミングを見て、効率よく敵を倒せるように、武器を振るっていた。


「はっ! ほっ! それっ!」


 俺はロングソードを片手にサハギンを切り払いながら、折を見て魔法を放つ。

 どうやらいまの俺なら《魔矢マギボルト》一発でサハギンを倒せるようだ。


 できるだけ砂浜から距離のとれる岩場近くを走っているというのに、サハギンが次々にやってくる。

 俺たちはそれを倒しながら、ひたすら先を目指した。

 この際ドロップアイテムは無視だ。

 消滅するのを待つ時間がもったいない。

 放っておいても誰かが拾ってくれるだろう。


「レオン、見えましたわ!」


 きっかり1時間ほどで、転移陣に到達した。

 砂に足を取られて走りづらかったのもあるけど、サハギンの数がこんなに多くなければ、もっと早く辿り着けたはずだ。


「よし、さっさと次の階へいこう」


 俺たちはそのまま転移陣に乗り、次の階へ進んだ。


○●○●


 その後も俺たちは、とにかく早く次の階を目指して進んだ。


 13階、14階と進むごとにモンスターの数が減っていき、進行のペースもあがる。

 そのぶんサハギンの上位種や、より強いモンスターも出始めたけど、せいぜいクヴィンの塔の同じ階より少し強い程度だ。

 俺たちにとっては、質よりも量のほうが厄介だったよ。


「ふぅ……やっと15階か」


 さらに2時間足らずで、15階に到達した。


 数分歩いたところで岩陰に座り、渇癒水をがぶ飲みする。


「ぷはぁ……! 生き返るな」

「ふぅ……本当に、疲れましたわね」


 口の端から垂れる水を拭いながら、リディアが呆れたように言う。


「それで、どうする?」

「……あたりに人の気配はございますの?」

「いや、いない」


 この階にも人の姿は散見されるが、周りに誰もいないことは確認済みだ。

 だからこそ、ここを選んだ。


「なら、話は早いですわ」


 リディアはそう言うと立ち上がり、岩に手を着いた。


「ふふっ、実はレオンに見せたいものがございますの」


 彼女は艶やかに微笑んでそう言うと、尻を突き出した。


「見せたいもの?」


 彼女のうしろに立つと、短いスカートの裾からショーツが見えた。

 いつもとデザインが違うようだけど……。


「レオン、よーくご覧になって」


 よく見てと言われても、レースのあしらわれた見事な下着だとしか思えない。

 少なくとも探索で穿くには、あんまり向かないような……。


 おや……これ、少しズレて重なってるのか?

 じゃあ、もしかして……。


「お、おお……?」


 少し重なっていた部分が、左右に開くような仕組みだった。


「すごい……」

「うふふ……これでしたらいちいち脱いだりずらしたりせず、できますでしょう?」


 たしかに。


「こんなもの、どこで?」

「クヴァル家の領主夫人に譲っていただいたのですわ」

「領主夫人にって……どんな話したの?」

「あら、普通のガールズトークですわよ?」


 俺の問いかけに、リディアがとぼけたように答えた。

 女子の世界ってのは、男には理解できなそうだな……。


「そんなことよりレオン、早く……」

「ああ、そうだったね」


 新しいショーツのおかげで、俺たちはいつもよりすばやく行為を終えることができた。


《条件を満たしました。賢者タイムを開始します》


 それから俺たちは、二時間と少しで21階に到達した。


「今度はすなばくか」


 目の前には、真っ青な空と、なだらかな丘をいくつも形成する、無機質な砂漠が広がっていた。

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