第10話【赤魔道士】は新人を鍛える
結局あのあと、前と後ろで盛大に楽しんでしまい、エメリアがダウンするまでやりまくった。
彼女は今日から数日かけて新しい拠点に必要な物を買いそろえるという役割がある。
それでしばらく忙しいからと、俺を訪ねてきたようだった。
結局朝になっても目覚めなかったので、リディアに言伝を残してギルドを訪れていた。
彼女はここの領主に挨拶すると言っていたが、前触れなく会える相手ではない。
なので先方の準備が整うまでは、エメリアのサポートをしてもらうことになっていた。
「それにしても……」
うしろのほうでも賢者タイムが発動したのには驚いた。
これまでの検証だと、自分でしたり口でしてもらうのはだめで、本番でも外出しだと発動しなかった。
だが、まさかうしろのほうでも発動するとは……。
なにか意味があるのだろうか?
賢者タイムに関して、普通にセックスしたときとの違いはなさそうだった。
もちろんダンジョンで戦闘などを経験してみないとはっきりしたことは言えないので、これも検証が必要だとは思うけど。
「させてもらえるかな……」
ダンジョンで、リディアにお願いする場面を想像してみた。
『はぁ!? お、お尻でって……レオンはなにを考えてますの!?』
顔を真っ赤にして怒る彼女の姿が目に浮かぶ。
「いや、まてよ……」
彼女はたしか、何人かいるお母さま方にいろいろ教わっていると言っていた。
案外平気で受け入れてくれそうな気もするな……。
昨夜はじめて経験したそれだが、たまにしてもいいかな、くらいのものだった。
好きな人は好きなんだろうけど。
俺はやっぱり普通に前でするほうがいいかな。
ま、何度も経験するうちに変わってくるのかもしれないけど。
「お待たせしましたです」
なんてことを考えていると、プリシラが祝福の間から出てきた。
「大丈夫だった?」
「はい! ちゃんと【喧嘩士】になれたです!」
プリシラはそう言って、胸の前で拳を握った。
どうやら無事、クラスを得られたようだ。
「あの、それはそうと、本当にこの格好で塔に入るですか?」
プリシラが、少し恥ずかしげに尋ねてくる。
彼女はいま、ヘソ出しのノースリーブシャツにホットパンツという服装だ。
それに加えて手首までを覆う厚手のグローブに、くるぶし丈のブーツを身に着けている。
「【格闘家】の恩恵を考えると、その恰好に慣れていたほうがいいんだよ」
塔に入ると得られるクラスの恩恵を発揮するのに、相応の装備が重要になるのは周知の事実だ。
たとえば【赤魔道士】の俺なら鎧兜は身に着けられず、武器も剣のみ、といった具合に。
そしてクラスに不相応な装備は障害となり、動きや強さに制限がかかってしまう。
初級職の【喧嘩士】は恩恵が少ない代わりに制約もあまりない。
鎧兜は身に着けられないものの、厚手のコートくらいなら問題ないのだが、プリシラは中級職の【格闘家】へクラスチェンジ予定だ。
【格闘家】の場合、腕や脚をある程度露出した方が、恩恵を受けやすい。
といっても腕は前腕、脚は膝下くらいを出していればいいんだけどね。
ようは篭手やすね当てを装備できないってだけなんだが、エメリア、ミリアム、リディアの3人に装備を見繕ってもらったら、なぜかやたら露出の多い服装になっていた。
「うぅ……そういうことなら、仕方ないのです……」
プリシラががっくりとうなだれる。
もうちょっと布面積が多くてもいいんだけど、女性陣の決定に異を唱えるのも怖いので、ここはプリシラに慣れてもらうしかないだろう。
「まぁ、そんなに浮いてるわけじゃないし、そう気にしなくてもいいよ」
冒険者の中には、それこそ下着と変わらないんじゃないかという格好のおねえさんや、ビキニパンツ一丁のおっさんなど、露出の多い格好の人が少なからずいる。
クラスの恩恵はもちろん、戦闘スタイルに合わせてそういう格好になっていくのだ。
もちろん、がっちりと鎧を着込んでいる人だっている。
クラスという不思議な力があるので、服や鎧で肌を覆えば安全とは限らないっていうのは、冒険者のおもしろいところだよな。
「あ、あの、わたしに、戦えるでしょうか?」
塔へ向かう道すがら、プリシラが不安げに尋ねてきた。
「大丈夫。俺が回復魔法や支援魔法でしっかりサポートするから、そこは安心してほしい」
「……わかりましたです。よろしくお願いしますです」
○●○●
「さて、塔に入ったわけだけど」
「アニキ! わたしはなにしたらいいですか!?」
「ア、アニキ……?」
なんだかプリシラの顔つきが変わっている。
っていうか、アニキってなんだよ。
「とりあえず、デザートラビットあたりと戦ってもらうんだけど」
「うす! なんでもいいからぶん殴ってやりてーです!」
「あ、うん、元気だね」
【喧嘩士】は塔に入ると少し好戦的になるんだけど、どうやらこの子は恩恵の影響を受けやすいらしい。
「一応確認しておくけど、ウサギを倒すのは気にならない?」
「畜生をぶちのめすのに、なにを気にする必要があるってーんですか?」
「いや、なら大丈夫」
プリシラは兎獣人だからそのあたり大丈夫か気になったけど、問題なさそうだ。
「あっ、ウサ公発見です! ぶん殴ってやるです!!」
「ああ、待って。その前に基本的な戦い方を教えておくよ」
「それならなんとなくわかるですよ?」
クラスを得た時点で、ある程度戦い方は習得できるのだが、それでもちょっとした練習くらいはしておいたほうがいい。
「とりあえずしばらくは前蹴りを中心に戦ってほしいんだ」
「前蹴り、ですか?」
前蹴り、通称ケンカキック。
格闘経験のない素人になにかひとつだけ技を教えるなら、これになるだろう。
蹴りや突きは踏み込みだったり腰の回転だったりと、普段使っていない力が必要になる。
ただ前蹴りの場合、走ったり歩いたりという動作の延長にある動きなので、ちょっとした練習でそれなりの威力を発揮できるのだ。
「蹴り飛ばすというより、踏みつけるって感じかな。やり方はなんとなくわかると思うから、俺を蹴ってみて」
「アニキを蹴るなんてとんでもねーです!」
「いいから」
「で、でも……」
恩恵で好戦的にはなっているけど、本来の優しさや俺に対する遠慮が勝ってるみたいだな。
うーん、ここはガツンと言ったほうがいいか。
「おい、プリシラ」
「は、はい」
「お前の蹴りくらいで俺が怪我でもすると思ってるの?」
「そ、そんなこと、ねーですけど……」
「だったらさっさとやれっ!」
「ひゃいぃっ!!」
返事とともに、彼女が前蹴りを放つ。
悪くない動きだ。
「はっ……!」
プリシラの蹴りを、腕で受け止める。
うん、はじめてにしては悪くない。
獣人特有の脚力のおかげか、レベル1の【喧嘩士】としてはかなりいい攻撃だろう。
「まだまだぁ! もっとこい!!」
それでも、彼女ならもっとやれる。
そう思ったので、何度か練習を繰り返した。
「よし、いいだろう。そろそろ本番だ」
「はぁはぁ……うす……!」
数回とはいえ全力の前蹴りを繰り返したプリシラは、息を切らせていた。
まぁ戦闘経験のない素人だから、しょうがないだろう。
レベル1だと、恩恵もそこまでではないし。
「とりあえず《
「あっ……」
プリシラの表情がやわらぎ、呼吸も整った。
「すげーですアニキ! 疲れが吹っ飛んだです!」
「こんな感じでサポートしてやるから、全力で頑張れ」
「うす!」
ちょうどいいところにデザートラビットがいたので、それを標的にする。
「おらおらウサ公! 踏み潰してやるですー!」
デザートラビットに、プリシラが駆け寄っていく。
体高が俺の腰ほどはある、巨大なウサギだ。
うまくすれば、顔面に蹴りが当たるのだが。
「ああっ!」
デザートラビットはプリシラの前蹴りを、ひょいと横に跳んでかわした。
もう少し近づいたほうがよかったな。
デザートラビットは着地するなりプリシラへ飛びかかろうとした。
全体重を乗せた前蹴りをかわされて体勢を崩したプリシラは、スキだらけだった。
あの巨体で体当たりされると、レベル1の冒険者だと最悪一撃で倒されてしまう。
「キュッ……!?」
だが跳び上がる直前、俺の《
「アニキ……?」
突然の出来事に、プリシラが戸惑いの視線を向けてくる。
「俺が守ってやる! 恐れずにやれ!!」
「は……はいです!」
驚いた様子のプリシラだったが、すぐに気を取り直してあたりを見回した。
にしても、すばしっこい獣型の魔物は、戦い慣れていない近接職にとって少しばかり厄介な相手だな。
クヴィンの塔なら、ゴブリンを相手にすればいいんだが、ここの低層は獣型しか現れない。
弓や魔法で弱らせられればいいのだが、俺の場合どれだけ手加減しても一撃で倒してしまう。
「アニキ! 次はあのウサ公をやるです!」
「おう。次はもっと近づいてから蹴るんだ」
「りょーかいです!」
プリシラが標的となるデザートラビットを見つけた。
なら先んじて……。
「《
妨害魔法を受けた敵が、動きを鈍らせる。
身体能力全般を弱体化させる魔法だ。
筋力が落ちればその分スピードや反応速度も落ちる。
「おりゃー!」
「キャゥッ!」
プリシラの前蹴りが見事デザートラビットを直撃した。
《
「やったです!」
プリシラはウサ耳を揺らしながら、嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねた。
「いいぞ、その調子でどんどんいこう!」
「はいです!」
それから俺は妨害魔法と回復魔法でサポートしながら、プリシラの戦いを見守った。
支援魔法を使うのは、もう少し先にしたほうがいいかな。
「はぁ……はぁ……アニキ……また、レベルアップです」
プリシラが息を切らせながら、報告してくる。
彼女が疲れるたびに《
休息や睡眠でしか癒やせない疲労もあるし、今日はこのあたりが限界だろう。
「いくつになった?」
「レベル5です」
「うん、よくやった」
「えへへ……アニキにほめられたです」
1日目の成果としては充分だし、そろそろ切り上げるとしよう。
「プリシラ、歩けるか?」
「うす……大丈夫です」
「よし。帰るまでが探索だ。最後まで気を抜くなよ」
「りょーかいです」
それから俺たちは無事に塔を出て、宿に帰った。
「アニキ……今日はありがとうございましたです」
「おう。っていうか、外でもそう呼ぶの」
「うす……おつかれさまです……」
俺の問いかけが聞こえたのかどうか、彼女はふらふらと自分の部屋に入っていった。
「なんなの、アニキって?」
それを見ていたエメリアが、尋ねてきた。
どうやら買い物は順調らしい。
同行していたリディアに、ギルドへ勤めに出ていたミリアムさんも、すでに戻っていた。
「ああ、なんか恩恵の影響を受けやすいみたいでね」
「ふーん。よくわからないけど、それってどうなの?」
「少なくとも冒険者には向いているわね」
エメリアの疑問に、ミリアムさんが答える。
クラスの恩恵を受けやすいということは、レベルアップやクラスチェンジによる伸びしろが大きいということだからな。
「課題も見えたし、明日からもしっかり鍛えるよ」
そんなわけで翌日。
「あの、今日は塔に入らないですか?」
俺たちはギルドの屋外訓練場にいた。
塔の1フロアはあろうかというほど広い場所だ。
たくさんの冒険者が、個人なりグループなりで訓練に励んでいる。
「昨日のはお試しみたいなものだからな。本格的な訓練はこれから始まると思ってくれ」
「わ、わかりましたです」
どの町のギルドにも、こういった訓練場が存在する。
俺も駆け出しのころは、クヴィンの町の訓練場をよく利用したもんだ。
「それにしても……」
俺はしゃがみ、地面に触れる。
ここの訓練場は、一面砂なのか。
これは、悪くないぞ。
「あ、あの、アニキ、いまからわたしはなにするですか?」
「これからプリシラには、冒険者にとって一番大事な力を鍛えてもらう」
「一番大事な力、です?」
おそるおそる問いかけるプリシラに、俺はできるだけ明るい笑顔を向けた。
「それじゃ、走ろうか」
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