逢坂虎ノ助と、喧嘩


 突っ込んでくる男子生徒。


 俺は天城のことを気にかけつつ、

 男子生徒の相手をすることにした。


 ……もう、喧嘩はしないって思ってたんだけどな。


 けど仕方ない。

 天城を悲しませるくらいなら、俺は――


「――先輩、ダメですっ!」


「……っ!」


 天城の声。それを聞いて、咄嗟に握っていた拳を解く。

 そして殴りかかってくる男子生徒の腕を掴むと、ひねりながら男子生徒を抑え込んだ。


「いててててっ!!!!」


 男子生徒は痛みに悶絶し、その場にうずくまる

 俺は男子生徒の腕を掴んだまま、体重をかけて動きを抑え込んだ。


「……知らないのか? 人食いタイガーの話」


 俺は、今まで言われてきた噂を話し始める。


「人食いタイガーは、目だけで人を殺せるんだぜ」


 俺はキリリとした目(自称)で、桐生たち男子生徒を睨む。


「人食いタイガーは、一人で隣町の番長とタイマン張って無傷の勝利をしたらしいぜ」


 小学五年生の時以来、喧嘩はおろか人を殴ったこともないが、鍛えはしていた肉体で抑え込んでいる男子生徒の腕を、少しだけひねる。


 再び「痛い」と短い悲鳴があがった。

 ……すまん。もう少し我慢してくれ。


「俺は、結構喧嘩が強いほうだ。お前達なんて、一捻りにできるくらいにな」


 嘘だ。

 俺にそんな力はない……と思う。わからない。喧嘩なんてしたことないからな。


 けど、鍛えていたおかげで動けはする。

 今の男子生徒の攻撃を避けれたことからも、それはわかった。


「……それでも、やるか?」


 精一杯にらめつけながら、桐生に尋ねる。


「……くっ」


 っと怯む桐生。

 そこに追い打ちをかけるように、天城が声を上げた。


「録音回してるから大丈夫! やっちゃってください!」


 と。

 おいおい。やっちゃうわけないでしょうが!


「……ひ、ひぃい……っ! お、俺は桐生に頼まれただけだからな!」


 わかりやすい三下的なセリフを吐きながら、桐生の取り巻きは屋上から去っていった。

 俺が抑え込んでいた生徒も、手を離すと後を追うように屋上から去る。


 残されたのは桐生。

 桐生は今だに悔しそうな顔をしていた。


「……どうするんだ?」


 再び視線を向ける。

 すると桐生は、


「……覚えておけよ……っ!」


 と捨て台詞をはいて、屋上から去っていった。





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