天城つぼみと、介入

「––ちょっと待って!」


 男子生徒たちが俺に近づいてくる中、不意に声があがる。

 屋上にある唯一の扉。


 鉄製の扉の前に立ち、風に茶色のセミロングヘアをなびかせる少女。


 天城つぼみ。


「天城? どうしてここに」


「先輩が屋上に向かっていくのが見えたんですよ。たまたまですけどね」


 聞くとそう答える天城。

 結構、人目を気にしながらきたんだけどな。


「なんだよ、天城。なんの用だよ」


 尋ねるのは桐生。

 心なしかさっきよりカッコつけている気がする。


「なんの用って……桐生君たちが馬鹿なことしようとしてるから、止めにきたんじゃない」


「馬鹿なこと? この人喰いタイガーと喧嘩することか?」


 くっくっくと笑う桐生。


「こいつはこの学校の癌だ。退治するのは、生徒の総意じゃないのか?」


 ひどい言いようだ。別に学校に対して危害を加えているわけじゃないのに。


「……総意じゃない」


「あん?」


「総意じゃない。少なくとも、私はそれを望んでない」


「……ちっ、なんだよ天城。お前マジでこの不良と付き合ってんのか?」


 桐生の視線が天城を射抜く。

 しかし天城は動じずに、逆に睨み返した。


「付き合ってない。けど、私は知ってるから。先輩が……実は優しい人だって」


「……ははっ! この不良が優しいだぁ? 何言ってんだよ天城!」


「そうだぜ天城ちゃん。この不良に脅されてるんなら、助けてあげるからさ。本当のこといいなって」

「そうそう。俺たちがこの不良を再起不能にしてやるからさ」


「いらないっての! 私は脅されてないし、別に先輩がボコされようがこの意見は変わらないから」


「……お前、マジで何言ってんの? ちょっと可愛いからって調子のんなよ?」


 露骨にいらっとする桐生。

 しかしなんだ。すごい蚊帳の外感がある。


 一応、天城を守れるように一歩、彼女と桐生の間に入る。


「そのちょっと可愛い子に振られたくせに」


「……テメェ……」


 じりと桐生がにじりよってくる。

 天城が、一瞬身構えたような気配がした。


「何度でも言ってあげる。私は先輩のことを優しいと思ってる。陰でこそこそ人の悪口を言う、桐生君よりもね」


「……そうかよ。ったく、ムカつくな」


 はぁ、と嘆息を漏らしたあとで、桐生は空を見上げる。

 そして、


「おい。このアマと不良をボコすぞ。天城はひん剥いて犯せ。動画とってセフレにすっぞ」


 そんな外道なことを言い始めた。

 なるほど、これがこいつの本性か。


「はぁ……せっかくよぉ、クラス中にタイガーと天城の噂流して、煽って……そんでクラスのグループメッセで天城

 のことを慰めて、外堀を埋めたってのによぉ……俺の努力をどうしてくれるんだよ」


 何その努力。

 すごい。そこまでするほど天城が好きだったのか。


 ……いや、さっきのセリフからすると、天城が好きってよりただ「付き合いたい」だけ、関係を持ちたいだけってところか。

 まったく、なんてクズだ。


「……覚悟しろよ、天城、タイガー」


 男子たちが取り囲むように展開する。

 うち1人は、天城が逃げてもすぐに追いつくように扉の近くに寄った。


 俺はすっと天城の近くによる。

 さて、どうするか。


「……ねぇ、先輩。先輩に朗報ですよ?」


「朗報? なんだよ、援軍でもくるのか?」


「いいえ、援軍はきません。……けど、私がただ何もせずに介入するとでも?」


「どういうことだよ」


「……この状況、録音と録画してます。足下、スマホ置いてますよね? それで録画してます。録音は私のポケットのボイスレコーダーで」


「そんなことしても無駄だぜ天城。俺たちがスマホもレコーダーもぶっ壊すからな」


 話を聞いていた桐生がニヤリと笑う。

 たしかにその通りだ。けど、


「先輩、この状況さえ突破できれば、私たちの勝ちですよ?」


「……そうだな」


 突破できればな。


「––殺せぇっ!」


 作戦を考える間も無く、桐生の合図で男子たちが突っ込んでくる。

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