天城つぼみと、敵意
翌日の放課後。水曜日という中間を終えたことで、祝日が顔を覗かせる。
そんな中、今日も天城の誘いを断り図書室で時間を潰した後、一人で帰ろうとしていると、ふと中庭に天城の姿を見つける。
気にはなったものの、その思いを振り切って帰ろうとする。
しかし、立ち去ろうとしたときに中庭にいるのが天城一人ではないことに気がつき、足を止めてしまった。
見覚えのある爽やかイケメン。
たしか……天城に告白していた、桐生だ。
もしかしたら再び告白をするつもりなのかもしれない。
傷心中の天城なら落とせると思っても不思議じゃなさそうだしな。
邪魔しちゃ悪いと立ち去ろうとすると、ふと天城の雰囲気がいつもと違うことに気がついた。
いや、いつも通りなのだ。
俺と一緒にいる時の、毒のある顔。
『あの不良と付き合ってるのか?』
窓越しに聞こえてくる桐生の声。
やめておけばいいのに、俺はどうしても気になって盗み聞きをしてしまう。
『……そんなこと、桐生くんには関係ないじゃない』
答える天城の声。どことなく不機嫌だ。
そんな天城の声に、桐生は深くため息をついて続ける。
『あの不良と付き合っても、君のためにならない。これは忠告だ。別れたほうがいい。今なら、俺が噂を消すのを付き合ってあげるから』
物凄い自信だ。
やはりイケメンは自信に満ち溢れた言動をするな。
『…………』
天城は答えず、じっと桐生を見つめる。
『……考えておいてくれ』
そう言って、桐生は踵を返しどこかへ去っていった。
モデルみたいなターンの仕方。絵になる男だ。
天城はその場で立ったまま、しばらく何かを考えるようにしていた。
声をかけようかとおも思ったが、ここで声をかけたら今日誘いを断ったのが無駄になってしてしまう。
このまま帰宅しようとして、さっきの桐生や天城に会ってもいやなので少しだけ時間を潰してから帰ることにした。
◇ ◆ ◇
その判断が、ミスだった。
「……」
昇降口。
下駄箱から靴を取り出して履き、帰ろうとしたところで視線を感じる。
その主は先ほどまで天城と会話していた桐生。
なんだ、と思ったが、向こうは俺が桐生の名前を知っていることを知らない。
無視して、横を通り過ぎ帰ろうとする。
しかし、
「天城と付き合ってるんですか?」
あろうことか、桐生は俺に話しかけてきたのだった。
「……」
驚きのあまり立ち止まってしまう。
桐生は何も答えない俺にイラついたのか、眉間にシワを寄せながら言葉を続ける。
「後輩を手籠にして、楽しいんですか? どういう弱みを握ってるんです?」
「……手籠にもしてねえし、弱みなんて握ってねえよ。付き合ってないしな」
めんどくさいので明確に否定しておく。
これで天城へのヘイトが緩和すればいいと淡い期待を込めて。
しかし桐生には聞かなかったようだ。
「あんまり調子のらないでくださいよ。人喰いタイガーだか手のりタイガーだかしらないけど、この学校の天下はアンタのもんじゃないんだから」
明確な敵意。
何を思ってこういうことをしてきているのかわからないが、俺はその喧嘩を買うわけにはいかない。
「天下なんかいらねえよ。それから、俺は天城と付き合ってないし、関係もないから。勘違いしてそうだから、否定しておくからな」
それだけ言って、俺は視線を振り切り校門の方に歩を進める。
背中にはまだ視線。そして敵意。
「……はぁ」
めんどくさいことこの上ない。
俺は静かに生活したいだけなのに。
まったく生きにくい世の中だ、と空を仰ぐのだった。
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