逢坂虎ノ助と、距離感


 翌日。

 重たい体と心を無理やり引きずりながら、学校へ向かう。


 1日程度じゃ噂は消えておらず、むしろ広まった分悪化しているように感じた。

 入学したての頃を思い出す感じだ。


 その頃も人喰いタイガーって噂が一人歩きして結構いろいろ言われてたなぁ。


 そんなことを考えながら席について一息。

 教室に入る時間はチャイムギリギリにしているので、すぐにチャイムが鳴り響きHR開始の時間になる。


 このまま今日も何事もなく終わるといいな。


 と思っているうちに昼休み。

 いやぁー、雑念がないから授業が捗るな。


 今日のランチはどうしようかと少し逡巡しながらスマホを取り出す。

 別に誰かから連絡がくることなんてほとんどないんだけど……と思いながらチェックすると、2件のメッセージが。


 1つは御倉から。


 M.Rao『2巻の発売が決まりました。来月の15日です。先輩のおかげで完成できました』


 というもの。

 もともとの新刊情報にはなかったと思うから、緊急で決まったのかな。


 母さんも大変そうだ。しかも来月って。

 まあ勢いがあるうちに続きを出したいという思いがあるのかもしれない。


 続いてのメッセージは天城から。

 内容は、


 あまき『放課後、いつもの場所で』


 というもの。コピペかな?

 一瞬思考を巡らした後、


『今日は用事がある。悪いな』


 と返す。

 すぐに返信。


 あまき『先輩のくせに生意気です』

 あまき『りょです』


 というもの。

 生意気言われても困る。


 ◇ ◆ ◇


 放課後。

 部活に勤しむ者、友人との歓談に花を咲かせる者。

 様々な過ごし方をしている中で、俺は図書室へと向かった。


 人がはけてから帰ろうと思ったからだ。


 思った通り図書室は人がおらず、一人で快適な空間となっている。


 窓際の適当な席に座り、カバンからライトノベルを取り出す。

 最近発売されて積み本になっていたもの。王道冒険ファンタジー小説。


「……ん?」


 ふと窓の外に目をやると、見覚えのある茶髪のセミロング。

 天城だ。


 天城は友人と一緒ではなく、一人で校門から出て行こうとしていた。

 いつもは友人に囲まれている印象があるのに。


 やはり、今回の件は天城にもダメージを与えてしまっているようだ。


「……」


 どうするか。

 どうすればいいのか。

 俺に何ができるのか。


 昨日から解決を模索しているその問いだが、やはり答えは浮かばない。


 俺に取れる択で、これからダメージを広げないために打てるもの。

 それは「天城と距離をとること」だろう。


 本当は……本当なら、噂を広めているやつをぶん殴りにいきたい。

 そういう気持ちは、ある。


 けど、それをやってしまうと失敗することはもう身を以て知っている。


 いいじゃないか。

 接点のなかった不良オタクとリア充が、元の関係に戻るだけだ。


 噂が落ち着いた段階なら、天城のコミュニケーション能力をもってすれば、クラスメイトたちと元の関係性に戻ることも容易だろう。


 ……うん。

 今は、その選択肢が一番いい。

 ハッピーエンドに繋がる道だ。



 そう言い聞かせながら、俺は活字に視線を移した。







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