逢坂虎ノ助と、不協和音


 土曜日に、天城との映画鑑賞。

 日曜日に、御倉とのラノベ取材。


 その2つのイベントが怒涛のように駆け抜けた休日を終え、月曜日。


 いつものように学校に向かうと、いつもと違う視線。

 通学路からその視線は感じていて、校門をくぐる頃にはその視線は強くなっていった。


 普段は腫れ物を扱うように、関わらなかったはずなのに。

 今日は視線を注ぎ、そして何かをヒソヒソと話している。


 一体何なんだ? また新しい喧嘩の噂でも流れているのだろうか。

 そんなことを思いつつ、特に気にせず教室に向かう。


 教室の自席に座ると、スマホを取り出しネットサーフィン。

 授業が始まるまで適当に過ごす。


 すると、周囲からヒソヒソと声と視線を感じた。

 なんなんだ、今日は。もうクラスメイトが俺のことを変に話すことなんてなかったはずなのに。


 誰にも聞こえないように嘆息を漏らす。

 そして、クラスメイトの声に耳を傾ける。


(あいつ……ついにやりやがったか……)


 さて、今回は喧嘩か。それともそれ以外のなにかだろうか。


(無理やり襲って、女にしてるんでしょ?)


 それ以外のなにかだった。

 中々珍しいパターン。


(ついに校内の女に手を出したか……しかも新入生)


 ほう、校内の女子生徒か。

 今までになかったパターンだな。


 ……校内の、女子生徒……。


 もし、名前が挙がるのであれば、俺が思い当たるのは、1人だけ。


(1年の天城が、タイガーに食われたらしい)


「……っ!」


 頭の片隅に想定はしていた、最悪の事態。


 たしかに、あれだけ一緒に行動しているんだ。

 気をつけていたとは言え、誰かに見られていてもおかしくはない。


「…………」


 動揺を顔に出さないようにする。

 変に動揺してしまうと、信ぴょう性が変にましてしまうかもしれないから。


 そのまま俺は、天城にメッセージを送る。


『大丈夫か?』


 これくらいのメッセージなら、まあ大丈夫だろう。


 本当は様子を見に行きたいところだったが、今行けばより変なことになってしまう。

 それは避けなければ。


「…………」


 頭によぎるのは、小学生の頃の記憶。

 俺はまた、失敗してしまったんじゃないか。


 ◇ ◆ ◇


 時間は経過し、昼休み。


 休み時間の度に視線とヒソヒソ話は、頻度と鋭さが増していき、居場所がいつも以上になくなっていた。


 朝に天城に送ったメッセージも、未だに返信がなかった。

 もしかしたら向こうも同じ状況になっていて、俺と距離を置こうと思っているのかもしれないな。


「…………」


 少し考えた後、俺は昼飯を調達するべく購買に行くことにした。

 人の多い食堂は、今日は避けたほうが良いだろう。


 すでに昼休みが始まって時間も経っているので、購買はだいぶ空いていた。


 ギャルゲのように争奪戦にもならない、お目当ての焼きそばパンを買って、教室に戻る。

 移動の際も視線を感じるが、無視。



 教室に戻り、焼きそばパンの包装紙を開けながら、スマホを取り出す。

 すると1通のメッセージが。


 あまき『放課後、いつもの場所で』


 そんなメッセージ。

 少しの逡巡。そして『了解』とだけ返事を返す。


 そのまま焼きそばパンを頬張りながら、ネットの海に思考を沈めるのだった。


 ◇ ◆ ◇


 放課後。

 授業が終了すると同時に、かばんを持って席を立つ。


 周囲の視線を振り切るように校門まで向かうと、そのまま喫茶店まで向かう。


 途中、万が一尾行されている可能性も踏まえ、周囲に注意をはらいながら移動する。

 まったく、中二病の時以来の行動である。


 そしてそのまま喫茶店に。

 中にはすでに天城の姿があった。


 向かい合うようにして座ると、すぐに天城が頭を下げる。


「ごめんなさい、先輩」


「何がだ?」


「……学校の件。先輩も、なんか聞いてたりするんじゃないですか?」


「さぁ、あいにく喋る相手がいないからな」


 とりあえず、あまり困っていないような感じをだしておく。

 その方が天城も気を落とさないだろうとの判断。


「……そうですか。なら、そういうことにしておきます」


 どうやら見透かされてしまったようだ。


「……どうやら、土曜日に先輩と一緒に新宿にいるところを、見られてしまったらしくてですね」


 やってきたドリンクをストローでチューチュー吸いながら、そんなことを話し始める天城。


「で、それがデートだと思われまして。私と先輩が、付き合ってるのではないかと」


「なるほど」


 概ね予想通りだった。たしかに新宿なんて若者が多数いる街だしな。


「……しかも、最悪なことと言いますか、なんと言いますか……」


 それだけで終わらず、天城は言葉を続ける。


「……先輩と、学校内で初めて会ったときのこと……覚えてます?」


「……学校内?」


「そうです。ほら……告白の……」


「……ああ」


 言われて思い出す。

 イケメンが天城に告白していたシーンを。


「その……なんというかですね。だいぶ話がこじれてまして……私が彼を振ったのは、先輩と付き合っているからで、先輩みたいな不良を選ぶなんて許せない~って、叩かれてまして……」


「……ああ……」


 そんな怖い話、リアルであるんだな。


「彼……桐生君って言うんですけど、まあ同学年で人気がありましてね」


「まあ、イケメンだったしな」


「顔はいいですよね。性格はクズですけど」


 ひどい毒舌だ。

 性格についてはわからんが、がんばれ桐生君。


「とりあえず、そんな感じです」


 それで話し終えたとばかりに、天城は再び飲み物を口に含む。


「わかった。じゃあ、俺たちがこうして会うのもこれが最後ってことだな」


「は? どうしてそうなるんですか?」


 当然の回答に、意外な返答。

 え? そういう話じゃないのか?


「だって、天城が校内で浮くのはまずいだろ」


「まあ、それはまずいですよ? けどそんなのバレなきゃいいじゃないですか。私のラノベ作家デビューには、桐生君じゃなくて先輩が必要なんですもん」


「……けどなぁ」


 そう言ってもらえるのは嬉しいけど、なんというか……うーん。


「……今日はこれで帰りますけど……私はこの関係、やめるつもりはないですからね?」


 そして、今日の喫茶店会議は終了となった。

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