閑話 取材とデートと、その日の夜
御倉と別れた後。
電車に揺られて家への帰路についていた。
しばらくして、最寄り駅に着いたのタイミングで、スマホがメッセージ受信を知らせる振動。
見れば御倉からのメッセージ。
M.Rao『いま、電車ですか?』
そんなメッセージ。
改札を出たタイミングで、「家のある駅に着いた」と返信する。
すると
M.Rao『通話できませんか?』
というメッセージが。
通話?
なんの要件かと思ったが、断る理由もないので承諾の返事を送る。
しばらくして、今度は着信を知らせる画面が表示された。
アイコンをタップして、通話を開始する。
「もしもし?」
『もしもし? 逢坂先輩ですか?』
「そりゃそうだろ」
『……あはは……たしかに、そうですね』
そんなやり取りで開始された通話。
そしてしばらくの無言。どういう要件なのか、こっちから聞いたほうが良いのか?
『……先輩』
と思ったら、御倉の方から切り出してくれた。
『今日は、ありがとうございました』
「……取材か? それならいいって。俺も楽しかったし」
『ですが、ちゃんと伝えてなかったなと思いまして』
そうだっけか?
『……先輩のおかげで、いい資料が手に入りました。これで3巻の執筆も順調にいけると思います』
「そうか。3巻用の資料なんだっけか? 2巻の方はどうなんだ?」
『はい、逢坂さんのおかげもあって、私の作業は終了してます。あとはイラストレーターさんの作業と、校正によるチェックが残ってるだけです。そのうち発売発表されるかと』
「そっか。おめでとう。発売楽しみにしてるから」
『……買って、くれるんですか?』
「そりゃそうだろ。もちろん買うよ。ファンだしな」
『……っ! もう……すぐそんなことを言うんだから……」
小声で何かを言っていたが、うまく聞き取れなかった。
「ん? なんて?」
『……なんでも、ないです』
「そうか。ならいいんだけど……」
『サイン、しましょうか? 2巻に』
「いいのか?」
『はい。それくらいであれば』
「いいなら、ぜひ頼む!」
『……はい』
それから、他愛ない会話を続けること15分ほど。
俺が家に着いたことをゴールに、通話は終わることになった。
『……逢坂先輩』
「ん?」
『……また、取材にいってくれますか? 一緒に』
「ああ。俺でよければ」
『……そうですか。ありがとうございます』
「いいって。俺も作品に楽しませてもらってるしな」
『……いい作品、書きますから』
「ああ。楽しみにしてる」
『はい。……おやすみなさい、逢坂先輩』
「ああ、おやすみ」
プツンと通話が切れる音。
その音を聞いてから、俺はマンションのエントランスをゆっくりくぐったのだった。
◇ ◆ ◇
ふと、空を見上げる
駅のホーム。
どうしても、さっきまで一緒にいたはずの人の声が聞きたくなって、電話してしまった。
……途中下車までして。
「……どうしよう」
もしかして、私は……。
ふと、ある予感が頭によぎったが、必死に頭を振ってその感情をかき消したのだった。
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