御倉楽音と、取材デート?
日曜日。
天気は昨日に引き続き快晴。絶好のお出かけ日和というやつだった。
昨夜に御倉から連絡があり、今日は池袋で待ち合わせということになっていた。
待ち合わせはお昼の12時。
御倉を待たせないように10分ほど早く待ち合わせ場所に着くと、すでにそこには御倉の姿が。
いけふくろうの前に立ち、通行人の視線を集めている女性。
背筋を伸ばし、ビシッとすた立ち姿。さらりと黒髪を撫でる姿は、少し高めの身長も相まって、まるでモデルのようだ。
「すまん、待たせたか」
若干視線が痛かったものの、御倉に声をかける。
御倉は声の主が俺だとわかると、ふっと少しだけ口角を上げて「いえ」と答える。
「……私も、今きたところなので」
「そ、そっか」
デートの定型文。なんとなく嬉しい気持ちになる。
「じゃ、行こうか」
「……はい」
御倉の返事をまってから、階段を上り池袋の街中へと繰り出す。
新宿ほどごった返してはいないが、池袋も人が多かった。
「どうする? 早速目的地に行こうか?」
「……逢坂先輩は、お昼ご飯食べましたか?」
「いや、まだだ」
「でしたら、お昼食べませんか? 先輩さえよければですが……」
「おう、もちろん」
そんなわけで、御倉とともにお昼ご飯を食べることになった。
◇ ◆ ◇
入ったお店は老舗の洋食店。
御倉が池袋にくる時、ランチはここかサイゼリアの2択らしい。
なんというか、女子高生らしくないチョイスだ。
座席はカウンターのみで、シェフの人たちが所狭しと手を動かしていた。
「私は……そうですね、ボルシチにします」
「珍しいな……俺はポークソテーにするか」
「……いいですね。美味しいですよ」
二人で注文すると、少しの間。
天城とはまた違う空間だった。
「今日は、お付き合いいただきありがとうございます」
「いや、大丈夫だ。暇だったしな」
「……そうなんですか? でも、昨日は予定があったんですよね?」
「ああ、ちょっと映画を見にな」
「映画……何を見たんですか?」
映画のタイトルを伝えると、少しだけびっくりした表情を返される。
「意外です。そういうの見られるんですね」
「まあ、ちょっとした付き合いでな。正直内容はあんまりだった」
「ふふ、そうなんですか。そう言われると、逆に気になりますね」
口元に手をあてくすりと笑う御倉。
たしかに、つまらないと言われる作品を逆に見たくなる気持ちはすごくわかる。
「御倉は映画とかよく見るのか?」
「……そう、ですね……以前はあまり見なかったんですが、デビューが決まってからは見るようになりました。逢坂さん……先輩のお母さまにも勧められたので」
「たしかに、映画好きだからな」
家の書庫にはラノベやアニメのDVD・BDの他、映画も大量に存在している。
やっぱりこういうエンタメに関わる人はたくさんインプットする必要があるのだろうか。
そうこう雑談しているうちに、料理が運ばれてくる。
ポークソテーとボルシチ。
ポークソテーは、たくさんのマッシュルームにこってりしてそうなタレが絡みついた見た目。
しかし口に運ぶと思ったよりコテコテしておらず、食が進む。
「先輩、一口食べてみますか?」
そんな御倉の提案で、ボルシチも一口もらう。
もちろん、「あーん」なんてする関係でもないので、普通にまだ手をつけていなかった自分のスプーンで一口。
……うん。美味い。
牛すじ肉だろうか? ほぐれた肉に味が染みていて美味しかった。
「このお店、美味しいですよね」
「ああ。うまい。いい店知ってるな」
「気に入ってもらえて、よかったです」
自分の好きな店が褒められたことで喜んだのか、顔を綻ばせる。
その後は、お互い言葉を発しないまま、無言でランチに舌鼓を打ったのだった。
ただ、その無言の空間は、驚くほど居心地のいいもので。
なんとなく、いい休日だなとそんなことを思うのだった。
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