天城つぼみと、デートの終わり


「……は?」


 予想もしていなかった言葉に戸惑ってしまう。


「もし、先輩が私のことを好きなんだとしたら……ごめんなさい。付き合えません」


 こちらの返答も待たず、天城は言葉を続けた。


「もし、そういう気持ちなのだとしたら……もう、私が先輩に頼るのも、やめます。それから――」


「……ちょっと待て」


 さらに話を続けようとする天城を遮る。


「えと……もしかして、俺が天城のことを好きだって言ってるのか?」


「はい」


「ねえよ。全然そんな気持ちはない」


「……は?」


 今度は天城が面食らったような顔をしていた。


「なんでそんなこと思ったのかしらないけど、俺は別にお前のことを好きじゃない。もちろん、男女の関係って意味でな」


「え? ……え? だって、その、あれ?」


 露骨にあたふたし始める。

 なんだなんだ。


「……ほ、ほんとに……私のこと、好きじゃないんですか? その、照れ隠しとかやめてくださいよ?」


「……すまん。恋愛感情とかは……ない」


 しっかりと目を見て、はっきりと答える。

 すると、天城はみるみるうちに顔を真赤にしていった。


「~~~~っ!」


 そして頭を抱えて、その場にうずくまるのだった。


「はっず……っ! うわはっず! なんですかそれ! なんなんですかそれ!」


「いや、そんなこと言われても……」


「~~~っ! せ、先輩が……先輩が思わせぶりなのがわるいんですよ!」


「お、おう……なんかすまん」


 とりあえず俺もしゃがんで、天城と視線の位置を合わせると頭を下げる。


「しかしまぁ、なんで天城はそう思ったんだ?」


「……だって、先輩……私の言うことなんでも聞いてくれるじゃないですか」


「そうか? んなことねぇと思うけど」


「んなことあるんです。私が言ってるんですから!」


 天城の剣幕に、俺は納得できないままだったが、思わずうなずいてしまう。

 そんな頷きに満足したのか、天城は立ち上がりスカートについた土埃をぽんぽんと払う。


「まあ、さっきの話は忘れてください。忘れましょう。忘れましたね?」


「あ、ああ」


 再び剣幕に押されて頷いてしまう。


「こほん。……私が言いたかったのは、ですね」


 わざとらしい咳払い。

 そして、くるりとこちらに背を向け、天城は再び言葉を紡ぐ。


「……最初は……ですね、無理やり利用してやろうってくらいだったんです。先輩のこと」


「まあ、半ば脅しだったしな」


 そんな始まりだったのに、なんで好きとかそういう話を思ったのか。不思議でしょうがない。


「なんというか、自分で言うのもなんですが、先輩と過ごす時間が、心地よくなってきてる自分がいてですね。不思議ですよね」


「…………」


 言葉だけ切り抜けば、むしろ天城が告白するみたいなシーンだけど……突っ込まないほうがいいんだろうな。


「ねぇ先輩」


 言って、天城は再び身体をこちらに向ける。


「……なんで不良なんかしてるんです?」


「……だから不良じゃないっての」


「はいはい。……先輩、そこそこいい人なんですから。そのキャラ、もっと押し出していった方がいいですよ」


「……それが出来てたら不良なんて呼ばれてないだろ」


 ……それに、俺自身は「いい人」だなんて思ったことがない。

 いい人だったら、あの時も――


「まあ確かにそうですね」


 けらけらと笑う天城に、意識が引き戻される。


「人に気を使うのって、結構めんどくさいですし」


 空を見上げながら、そんな言葉をつぶやく天城。

 その言葉は、俺に向けて言ったのか。

 それとも、自分に向けて言ったのだろうか。


「……そろそろいきましょっか。今日はありがとうございました」


 そうして、俺と天城のデートは幕を閉じたのだった。

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