御倉楽音と、水族館


 お昼ご飯を食べ終え、今日の目的地へと向かう。

 通りを抜け向かったのは、池袋の有名スポット『サンシャイン60』。


 御倉が取材を行いたかったのは、この中にある水族館だった。


「次の話で、水族館でデートするシーンがあるんですけど……うまくイメージできなくて。それで取材に」


 入場列に並びながらそんなことを話してくれる御倉。

 付き合ってもらってすみません、と続ける。


「いいって。水族館、俺も久しぶりだから」


 実際、少し楽しみにしている俺がいる。

 水族館なんて子供の頃きた時以来だから。


 チケットを買い、二人でいざ館内へ。

 年間パスの方がお得とおすすめされたが、そんなに来るかわからないのでやめておいた。


 ◇ ◆ ◇


 館内に入るとまずは海の生物たちが展示されている。

 サンゴや、一時期話題になったチンアナゴなど、なんとも可愛らしい生物たち。


「……うわぁ……」


 隣を歩く御倉も思わず声を漏らしていた。

 たしかに、想像以上にきれいで声がでるのもわかる。


 そしてしばらくするとクラゲのエリア。


「…………」


 今度は逆に御倉は声も出ていなかった。

 柔らかに浮くクラゲと、それをきれいにライトアップしている館内装飾。


 きれいすぎて、声を出すのも憚られるものだった。


「……きて、よかったです」


 本心だとわかるその言葉。

 別に俺が何をしたわけでもないが、付き合ってよかったと思う。


 クラゲを堪能した後、次のフロアへ。


 今度は川魚やカエルなどが展示されているフロア。


「……私、カエルとか苦手なんです」


 と、今度はあまり刺さっていない様子。

 まあ好みあるしな。


 ほどほどにして屋外フロアへ。

 名物天空のペンギンを見た後、ちょうど開催されていたアシカのアトラクションショーを見学することに。


「……アシカさん、頭いいですね」


 トレーナーのお姉さんのいうことを素直に聞くアシカ。

 その様子を真剣に見ながら、何かを必死にメモしていた。


 取材って大変なんだな。




 一通りのフロアを見終わったあと、フードコートで小休憩。

 お互いタピオカミルクティーのようなお洒落なものは飲まず、烏龍茶を飲みながら一息ついていた。


「……ありがとうございました、逢坂先輩」


「おう。もう取材は大丈夫なのか?」


「はい。だいぶメモできました」


 言って、必死にメモっていたメモ帳を見せてくれる。

 たしかにそこにはびっしりと文字が書かれていた。

 かろうじて読めたのは『ペンギンさん、可愛い』というもので、大丈夫かと心配になったけど。


「じゃあ、この後どうする? 他に行くところはあるのか?」


「他、ですか?」


「ああ。水族館以外に取材が必要な場所があれば、付き合うぞ?」


 そういうと、少し考えるような仕草をしたのち、


「……先輩、もう少しだけお付き合いしてもらうことできますか?」


 と御倉は言うのだった。


 ◇ ◆ ◇


 やってきたのは、水族館内のクラゲエリア。

 天空エリアが人気で、この辺りはあまり人がいないみたいだ。ある種貸し切り状態みたいだった。いいな、こういうの。


「もう一回クラゲがみたかったのか?」


「……それもあるんですけど、どちらかと言うと」


 クラゲの水槽を背に、御倉がこちらを向く。

 ライトアップされたクラゲが、御倉をきれいに装飾していた。


 まるでイラストのような、非の打ちどころのない情景。


「先輩に、伝えたいことがあって」


 そんな、幻想的な彼女は、俺の目をしっかりと見つめながら、そんなことを言うのだった。


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