天城つぼみと、関係解消


「……天城?」


 明らかな怒りの感情を見せた天城に、少し驚いてしまう。

 今までのような、おちょくりも入った怒りではない。本気の怒り。


「私が……私がラノベ書くのがおかしいですか?」 


「おい、天城……?」


「……私が、本気になっちゃおかしいって言うんですか!? ダメなんですか!?」


 自らの心情をまくし立てるように吐露していく天城。


「私が、本気になるのは……普通じゃないっていうんですか!?」


 俺の言葉が彼女の琴線に触れてしまったのか。記憶を辿っても、いまいちピンと来ない。


「……そんなことは、言ってない」


「言ってます! 言ってるんです! ……やっぱり先輩は、不良だったんですね……っ!」


 どうして『不良』と、そう導かれるのか。

 彼女の不良に対する嫌悪感は、一般的なものと少し違っているような気がする。


「……もういいです……っ!」


 そんなことを考えながら、彼女をどうにかなだめようか思案していると、彼女は鞄を肩にかけて駅の方に歩み始めてしまった。


「……っ! 天城!」


「……私に、関わらないでください」


 そう言い捨てて、彼女の姿は大通りに消えていく。

 いつもより華奢見える彼女の背中。俺は、声をかけることはできなかった。


「…………」


 彼女の姿が見えなくなってから、夜空を見上げる。

 排気ガスと雲で覆われ、星が見えなくなった夜空。


 どんよりとした空が、今の俺の心境を表してくれているようだ。


「……はぁ」


 よかったじゃないか。

 これで、俺は放課後を悠々自適に過ごすことができる。


 もう、あの後輩に付き合う必要はないんだ。


 そうだろ?

 もともと、脅されての関係。長続きする方がおかしかったんだ。


「…………」


 もう一度、彼女が消えていった方向を見る。

 目を潤ませた彼女の姿が脳裏に過ぎる。


「……くそ」


 あいつは、出会って数日なのに、俺に何を期待してるんだよ。

 俺なら、あいつの思う言葉をかけてくれると思ってるとでも?

 最初は関わりたくないって言ってたくせに。


 勝手なやつだ。

 本当に、勝手な。


「……だーもう!」


 スマホを取り出し、グーグル先生で番号を調べるとそこに電話をかける。


「——もしもし? 少しお尋ねしたいんですが」


 数十回のコールの後、ようやく出てくれた。


 仕方がない。

 あいつのラノベの続き、ちょっと気になるしな。


 いちオタクとしての、矜持だ。









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