閑話 センパイと、初めてのトーク


 埼京線。

 若干の帰宅ラッシュに巻き込まれながらも、電車の揺れに身を任せながら、溜まっていた通知を片付けていく。


 人食いタイガー先輩と一緒にいる時間、ほとんどスマホをいじらなかったから、友人からのLINEもかなり大量に溜まっていた。

 できたばかりの高校グループLINEも、私以外が盛り上がっている状況だったので慌てて参加する。


 こういうのをサボると、クラスで孤立しかねない。

 女子高生というものもサラリーマン的な地位確立ネゴシエーションが必要不可欠なのだ。


「…………」


 ふと、先程登録した、新しい友だちとのトーク画面を開く。

 まだ何も会話されていないその画面。


 初期状態の人型アイコンが無機質に表示されているだけ。


「……ん」


 せっかくだからと、指を滑らせながら先輩にメッセージを送ることにした。

 果たして、あの不良先輩はどういう返信をくれるのだろうか。


 少しだけ、楽しみな私がいた。





   『せーんぱい♪』

   『今日はありがとうございましたー』


 虎ノ助『おう』


   『おうて……』

   『嫌われますよ? 私に』


 虎ノ助『どういう脅しなんだよ』


   『とつぜんぼっち先輩の前に現れた美少女』

   『センパイからしたら』

   『喉から手が出るほど犯したい彼女候補』

   『って感じじゃないんですか?』


 虎ノ助『んなことねえよ!』

 虎ノ助『お前、もしそれで俺が』

 虎ノ助『「そうです」って返したらどうすんだよ』


   『①スクショ』

   『②通報』

   『③裁判』

   『④勝訴』

   『⑤私、はじめてのハワイへ≧∀≦』


 虎ノ助『慰謝料ふんだくるところまで考えてんのな……』


   『冗談ですよ、冗談』

   『てかセンパイ、名前、虎ノ助ってなんですか』

   『ばり本名じゃないですか』


 虎ノ助『だめか?』


   『だめじゃないですけど』

   『なんとなく、本名はさけるのかなって』


 虎ノ助『別に友だち少ないし大丈夫だろ』


   『あ……なんか……すみません……』


 虎ノ助『やめろ! 謝るな! 余計に傷つく!』


   『うけるw』


 虎ノ助『はいはい。そんで、なにか用か?』


   『しいて言うなら、お礼を言うのが要件ですけど』

   『用がないと連絡しちゃだめですか……?』


   『あれ? せんぱーい?』


   『もしかして、ときめいちゃいました?w』


 虎ノ助『すまん。親に呼ばれてた』

 虎ノ助『ときめかねえよ』


   『忙しいです?』


 虎ノ助『いや、大丈夫』

 虎ノ助『ちょっと頼まれごとされただけだ』


   『まあ今日は挨拶だけですし』

   『このあたりで切り上げてあげましょう』

   『感謝してください』


 虎ノ助『なんで上から目線よ』

 虎ノ助『了解。気をつけて帰れよな』


   『はーい。ではでは~』

   『おやすみなさい、センパイ』


 虎ノ助『おう、おやすみ』

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