天城つぼみと、奇妙な関係
「お願い?」
「そです。お願いです」
少し顎を下に引き、強調した上目づかいでこちらを覗き込んでくる。
身長差も相俟って、上目遣いの効果はばつぐんだ。急所にも当たっている。くそ。
「……なんだよ」
邪険にするわけにもいかず、とりあえず内容を聞くことに。
「昨日のでわかっちゃったと思うんですけど、実は私……ライトノベルが好きなんです」
あんだけ作者に熱いマシンガントークをしているんだ。
天城はたしかに、ラノベが好きなんだろう。
「昨日の御倉先生の『純愛トライアングル』だけじゃなくて、割と色々」
「オタクってことか?」
「はぁ? 誰がオタクですかマジやめてくださいぶち殺しますよ?」
「お、おう。すまん」
怒られてしまった。
「それでですね、実は私……色々なラノベを読んでるうちに、自分でも書いてみたいと思いまして……」
「ああ」
「でも私、オタクとかじゃないですしぃ」
「いや、知らない」
てかいい加減認めろよもう。
「……あーもう。察しが悪いですね。オタクだって周りからバレたくないってことですよ!」
「……」
納得。
確かに、昨日の中庭の様子を見ていると、天城からはオタク要素を微塵も感じなかった。
告白していた男子や、友人たちも同様。
「でですね、私一人だと行き詰まることが多くて、ぶっちゃけると協力者がほしいんですよ」
「協力者?」
「そです! 私の作品を読んでレビューしてくれたり、グッズを買いに行くパシ——一緒に買いに行ってくれたり」
今パシリって言いかけたよね。
「そういうことをしてくれたら、私嬉しいなぁって♪」
にっこりスマイル。
さっき怒りの表情を見てなければ、「あ、この子はよく笑う子なんだな」と勘違いしてしまいそうだ。
彼女のお願いは理解した。いや、実際何するのかはいまいちわかってないけど。
しかし、一つ気になることがある。
「なぁ、お前昨日、俺みたいなやつが嫌いって言ってたよな」
「? はい、言いましたよ?」
悪びれた様子もなく答える。
「……そんな嫌いな人に、こんなお願いして、お前はいいのか?」
「はぁ?」
何言ってるんですか? と続きそうな声。
天城は「んー」と頬に手を当てて何かを考えたのち、
「私が先輩を嫌いなことと、先輩が私のお願いを聞くことは関係あるんですか?]
なんてことを言い放った。
「…………」
なんともすごい回答に、俺は言葉を失ってしまう。
すごい。あらためてすごいな。感情じゃなくロジカルに動けということだろうか。いやロジカルで考えてもメリットがねぇよ。
「……断る」
数秒、体感時間では数分の後、言葉を振り絞って回答する。
「は?」
「いや、は? とか言われても」
「え、なんでですか?」
すごく純粋な目。なんでそんな目ができるんですか!?
「いや、OKする可能性皆無だろ」
「こんなに可愛い子がたのんでるのにですか!?」
自分で言うかねそれ。
「ともかく答えはNOだ。話はそれだけか? もう行くぞ」
屋上で俺が女子生徒と話しているこの状況。
見る人が見れば、変に絡んでいると取られてしまうかもしれない。
あらぬ噂をこれ以上立てられるのも嫌なので、そろそろ退散したいところだ。
「……いいんですか? 本当に?」
踵を返したところで、背中に声。
「もし先輩が協力してくれないなら、私にも考えがあります」
「考え?」
振り向かず、目線だけでチラリと天城を見る。
「なんだよ? 考えって」
「先輩にレイプされたって言います」
「なんて恐ろしいことをするんだ!」
ただでさえ変なレッテルだらけなんだ! 退学になっちまう!
「私だってなりふり構ってられないんです。あの手この手で脅しますよ」
「ど直球な宣言だなおい!」
見た目だけなら言っているセリフ逆だろ。本来であれば俺が言うセリフのはずだ。
いや、言わないけど。
「……で? 協力してくれますよね? 先輩♪」
「……わーったよちくしょう」
こうして、俺と天城つぼみによる、奇妙な関係が生まれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます