地の果てまで追いかけて、お前を愛そう

 


「アイリーンッ、アイリーンッ」


 ……王様の声がする。


 アイリーンは、そっと目を開けた。


 そこは、アルガス王宮の一室のようだった。


「よかった。

 みんなで戻ったはずなのに、お前の目が覚めなくて――」


 そりゃ、みなさんはあの洞穴を潜っただけでしたけど。


 私はリアルに死にかけてましたからね、とアイリーンは思う。


「アイリーン様~っ」

と側で見守るメディナも涙ぐんでいた。


 バージニアは微妙な顔をしていたが、礼を言おうとすると、ふいっと出て行ってしまった。


 その後ろ姿を見ながら、アイリーンは微笑む。


「バージニア様、意外に良い方でしたね」


 そうですかね……?

とナディアたちの顔には書いてあったが。


 まあ、自分自身のために動いたというのは本当だろうが。


 そのおかげで助かったのも事実だ。


 エルダーはバージニアの出ていった扉を振り返りながら言う。


「大丈夫だろうか。

 基本、お前に敵意があるようだから。


 お前を私から遠ざけるために、崖の上に住ませたのも、バージニアだと聞いたぞ」


 その言葉を後ろで聞いているアルガス王はハラハラしているようだった。


 だが、アイリーンは微笑み言う。


「でも、そのおかげで王様と出会えましたよ。

 なんせ私は、8888番目のお妃候補。


 本来なら、王様に目通り叶うような人間ではなかったので」


「アイリーン……」


 アルガス王は娘をかばってくれてありがとう、と言うようにこちらを見て、出ていった。


 みんなも出ていき、アイリーンはエルダーと二人きりになる。


 エルダーは他のものがいないのを確認すると、ベッドに腰掛けてくる。


「いや、今回は、ほんとうに心配したぞ」

「申し訳ございません」


「いや、襲撃して来た連中はお前ではなく、私を狙っていたようだから。

 私が謝るところだ。


 だが、これからは気をつけねばな。

 お前が私の最愛にして、ただひとりの妃だと敵に知られたら、お前が狙われるかもしれないから」


「……ただひとりにはならないのでは?

 あと8887人もいらっしゃいます。


 私などより、王様のお眼鏡にかなう娘はもっとたくさんいると思いますよ」


「いいや、会わなくともわかる。

 そんな娘などいない」

とエルダーは言い切った。


「私が地の底まで追いかけても、手に入れたいと思うのはお前だけだ。

 妃候補ももう増やさぬ。


 ……嫁入り先を探してやるのが大変だから」


 そう最後に本音をもらしたので、笑ってしまった。


「アイリーン。

 お前に私への愛がなくとも。


 私は何度でも、お前を地の底まで、あの世の果てまでも追いかけていくぞ」


 ……なんてことを真顔で言うのですか。

 どきりとしてしまったではないですか


 エルダーはそんなアイリーンの頬にそっと触れ、口づけてくる――。



 そのあと、ふたたび、金印を探しに改めて地下に下りたり。

 伝説の布職人たちを探し歩いたり。


 ついに冥府の王と対峙したり。


 見えもしないのに、バージニアがラナシュ王と恋に落ちたり。


 二人の周りで騒動はつきないが。

 

 まあ、それはまた、のちのお話――。




                           完


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愛はないですが、地の果てからも駆けつけることになりました ~崖っぷち人質姫の日常~ 櫻井彰斗(菱沼あゆ) @akito1

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