エルダー、出立っ!
「こんな立派な馬車でなくていいんですけど~」
アルガスへ向かい、旅立つ日。
王が用意してくれた黒い馬車を見て、アイリーンは言った。
盗賊などに目をつけられぬよう、見た目はそう派手ではないが。
中は赤いビロードのクッションやシートなどがあって、座り心地がよさそうだった。
「こんなもの立派なうちには入らぬぞ。
だが、まあ、座り心地は実はこれが一番なのだ。
私もともに馬車に乗る。
二人で語り合いながら、お前の故郷へと向かおう」
忙しいエルダーもようやく、わずかな休みがとれたようだった。
まあ、目的地はアルガスの地下牢なので、優雅なバカンスというわけにはいかないが。
「時間がないので、急ぐぞ」
「王様。
わざわざ自ら、あんな危険な場所に行かれなくても」
ある意味、冥府より危険ですよ、とアイリーンは訴える。
「簡単に呪われますからね。
冥府なんて、ただ川が流れてて。
走ってる私をカロンが高みの見物で
「大丈夫だ。
私がその死に損ないの英雄に遭い、お前の呪いを解いてやろう」
「……でもあのー、よく考えたら、私と陛下のご先祖様は一緒ですよね?
『我が血を引きしものよ。
ともに呪われろ』
とか言われませんか?」
エルダーは一瞬、沈黙した。
だが、すぐにアイリーンの手を握って言う。
「そんなことは覚悟している。
それより、アイリーン。
私は、陛下と一緒ならあの世の果てまでも―― とか言って欲しいのだが」
「そういうのわかりませんけど」
「……わからないのか。
私はお前のためならどんな危険も……」
厭わないのに、とエルダーがしょんぼり言いかけたとき、アイリーンは微笑み言った。
「でも、陛下が一緒に行ってくださるのなら。
冥府でも、呪いの牢獄でも。
どんな場所であろうとも、心強い感じがします」
エルダーは、ちょっとの間のあと笑い、そっとアイリーンを抱き寄せる。
可愛くて仕方がないというように――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます