知られてしまいました

 


 その日、バージニアは他の姫が主催しているお茶会に出席していた。


 うっとりするような芳香の異国の花々が咲き乱れているテラス。


 だが、この香り高い感じの花の匂いがバージニアは好きではなかった。


 ――花だけは、高かったり、珍しかったりすればいいというものはではないわ。


 私は、もっと素朴な匂いが好き。


 そこで、ふとバージニアは思い出す。


 ごく稀にアイリーンの屋敷に招待されることがあった。


 すると、見た目は艶やかでも落ち着いた匂いの花で屋敷が飾られていた。


 アイリーンは知っていたのだ。


 バージニアが強い匂いの花が嫌いなことを。


 ――子どもって、とりあえず、その辺にいる子と遊ぼうとするものね。


 小さいときは、何度か一緒に遊んだ。


 野山を駆け回ったりして。


 そんな小さな交流の中でも、アイリーンは自分の花の好みに気づいてくれていたようだった。


 そのとき、


「バージニア様、ご存知ですか?

 例の高い塔の姫の話」

といつぞやの令嬢が微笑みながらやってきた。


「知ってるわ。

 そんな姫はいないらしいじゃない。


 この国にそんな塔はない。

 暇をもてあました誰かの作り話よ」


 気になったので、調べさせたのだが。

 そのような塔はなかったのだ。


「それが、塔ではなく、崖だったらしいのです」


「崖……?」


「崖の上の朽ち果てた古城に住んでいるお姫様に、王様はご執心で、熱心に通われているらしいのです。

 すごい数の贈り物が日々運び込まれているとか」


「いやいやいやっ。

 そんなに頻繁にじゃないしっ。


 運び込まれているのは、生きていくのに大事な食糧ですよっ」


 アイリーンが聞いていたら、そう否定しただろうが、この場にはいなかったので。


 彼女は本で読んだ素敵な恋物語でも語るように、うっとりとそんなことを言う。


 崖の上の朽ち果てた古城……?


 まさかっ。

 アイリーンッ!?


「どんな素敵なお姫様がお住まいなんでしょうね」

と言う令嬢の前で、バージニアは叫ぶ。


「あれは姫なんかじゃないわっ」


 アルガスの姫は現王家の娘である私よっ、とバージニアは立ち上がる。


 あらあら、なんの騒ぎです?


 また、バージニア様?


 あの方、お元気ですよね~、という目で、みなは、のんびり見ていた。




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