数百年前の伝説上の人物だぞ


「その方は、かつて、この辺り一体を統治していた王だったらしいです。

 でも、大事な物をなくしてしまって、反乱に遭い、ここに投獄されたのだ、と言っていました」


「……それは伝説のラナシュ王では。

 って、数百年前の伝説上の人物だぞ」


 それは、霊なのでは、とエルダーは言うが――。


「私もそう思ったんですけどねー。

 本人が言うには、なくした物が気になっているうちに、もう死ねなくなってしまった。

 期限切れのようだ、と」


「……どういうことなんだ、それは」


「たぶん、死神も彼を見失ってしまったということなのでは」


 そうアイリーンは言った。



 ……とんでもない娘を愛してしまったようだ。

 8887人も他に妃候補がいるのに。


 アイリーンの話を聞きながら、エルダーはそんなことを考えていた。


 だがもう、引くに引けない。

 自分はこの妙な娘を深く愛してしまっている。


 それに、ラナシュ王のなくしたものと言うのが気になっていた。


 案の定、アイリーンは、

「そのラナシュ王(?)が言うには、なくしたものは、『領土を支配する者のあかし』だそうです。


 とりあえず、ミミズクの紋章の入った金印を探せと言われてまして」

と言う。


 イワンとエルダーは叫んだ。


「あれですよ、王様っ」

「あれかっ」


「それがあれば、その地方の民族はみな、素直に従っていたらしいのですが」


「ワイバーン地方の伝説の金印だなっ」


「王よ。

 その金印があれば、戦をせずに、ワイバーンを平定できますっ」


「そうだな。

 無益な戦をしなくてすむ。


 伝説によると、強きラナシュ王が力を失って、国がバラバラになり、今のように小国同士がいがみ合う状態になったということだったが」


 なるほど。

 金印を失っていたのか―― とエルダーは呟く。






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