第六指が動く

湖畔の近くに建てられたこじんまりとしたコテージ。

裏口から出てすぐに湖に出られるようにボートが木の桟橋に停泊されている。

この湖では肉付きのいいマスが簡単に釣れる。週末に訪れては湖で鱒を調達し

夕食のテーブルに並べる事が多い。正し、鱒はオードブルまではいかないまでも

それなりに役割を果たすと言っていい。綺麗に身だけを捌いたのちに日本から

樽で取り寄せた暁桜という焼酎で白身を洗い刺身で食べるのが最近の習慣だ。

その鱒を食する男の国籍はアメリカだが生まれは日本で幼い頃に渡米したが

大学を卒業後、日本に帰国した時にこの食べ方を知った。アメリカで医師免許を

取得し15年経ったある日このコテージを手に入れると鱒の事を思い出し

釣った鱒で近くのリカーストアで買った模造焼酎で試してみたところ美味であった。

だが彼にとってこれはメインディッシュではない。暁桜で洗いを施してもだ。

彼はそのメインディッシュを気兼ねなく食する事が出来るように成る為に

医師を選択したといっても過言ではない。遡れば医学生の頃から研究を始めていた。

しかしそれは誰にも気取られずに極秘裏にひっそりとコツコツ研鑽を重ねた結果

約80パーセントの割合で効果が期待できる所まで漕ぎつけたのである。

100パーセントが望ましいのは山々だが命を落とす事はどうやら避けられそうだ。

その新薬をコテージに纏まった量をストック出来たし、後は食材の調達に

出掛ける準備をする時がようやく来たのである。自らの体で臨床実験を幾度となく

繰り返しデータを蓄積し、もう待ちきれないのが率直な感想だった。

調理器具も食器も全て揃えた。さあ行こうか、食材調達の旅へ。

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