第14話 未来の話

第12話 未来の話



 一年もの間、ほぼ音沙汰おとさたなしだった茉莉まつりちゃんからメッセージがきた。

 しかも、星梨せいなさんとラブホテルに入ろうか、という瞬間に。


 まさかと思い、見間違いではないか何度も何度もスマホを見返してしまった。出会い系サイトのサクラから届いたメッセージかな? とかとんちんかんな発想をしてしまうくらいには、私にとってありえない出来事だったのだ。


 でも、どんなにチェックしても、送り主は登録してある茉莉ちゃんで。偶然この時間にメッセージをした、ってこともないだろう。文面的にも。

 となると、近くに茉莉ちゃんがいるってこと?


 私は星梨さんから離れ、ホテルの周囲に首を巡らせた。


「あの、どうしたんですか冬花さん。まさか、掲示板で他の女性とも連絡とってた、とかですか?」


 何事もなければホテルにインしていたはずなのに、私が突然身をひるがえしたものだから、星梨さんもいぶかしんでくる。が、どう説明すればいいものか……。

 とてもじゃないが、最近までお付き合いしていた女の子が近くにいるかもしれないから探してる、なんて言い出しにくい……。


「え、えっとね……。うーんとね……」


 うぅ、完全に挙動不審だ。茉莉ちゃん、私をまどわすことに関しては才能ありすぎなんだから。せめて、どんな理由があるにせよ、今まで私を放置していたことに関して一言でいいから聞いてみたい。

 私は、星梨さんから逃れるみたいにして、辺りをくまなく探した。ラブホを前にして怖気おじけづいたみたいになっちゃっているけれど、今だけは許して欲しい。


 すると、一年間会えなかったのはなんだったんだ、ってくらいあっけなく、その姿を視界に収めることができた。感情が一斉に流れ込んでくる。茉莉ちゃんとの思い出が、走馬灯のようによみがえってきた。


 電柱の影に潜んでいる学生服の女の子は、私の記憶とはちょっと変化があって。私が知っている制服ではなく、大人っぽいブレザー姿になっていた。そして、忘れもしない金色の髪は、前と同じく二つにくくってあって、愛らしく揺れている。背丈は、成長していないようだ。

 

 私の視線に気がつくと、彼女は堂々と前に進み出た。

 ほぼ一年ぶりの、小悪魔顔をした茉莉ちゃんだ。が、そこに笑みは浮かんでいなく、どことなく怒っている様子。


 私と茉莉ちゃんは視線を交わし――硬直する。まるで、果たし合いでもしているかのような空気だ。い、いや。私、別に怒っているわけではないけど。不満は……ちょっと、あるかも。だって、茉莉ちゃんのこと、もう忘れようとしてたのに。星梨さんと、いい感じになれると思っていたのに。なのに、なんでこんなちょうどいいタイミングで、しかもホテル街なんかに茉莉ちゃんがいるのか。


 かけたい言葉は無数にあるはずなのに、なかなか切り出すことができない。

 何分間、硬直していただろうか。もしかしたら一瞬だったのかもしれないけれど、時を動かしたのは星梨さんだった。私の背後に現れた星梨さんは、茉莉ちゃんを値踏みするように眺めている。彼女も、私と茉莉ちゃんのただならぬ空気に何かを感じ取ったのか、見比べて難しそうに思案していた。


「えっと……。まあ、なんとなく予想はつきますけれど……冬花さんのお知り合いですか?」


 口火を切ったのは星梨さんだった。

 私と茉莉ちゃんの仲介ちゅうかい役みたいな役割をさせてしまって、申し訳なさが生まれてくる。


 茉莉ちゃんも星梨さんをちらりと見やると、ふぅ、っと溜め息をつき、キッと私を見上げてきた。うう、やっぱり怒ってる。どうして? 怒りたいのは私のほうなのに。


「ちょっとおねーさん、今ホテルはいろーとしてたよね? この人とはどーいう関係なの?」


 茉莉ちゃんがお気にさないのはその一点だけなのか、メッセージで送ってきたことと同じことを聞いてくる。というか、私と星梨さんがホテルに入るの嫌がってるってことは、もしかして茉莉ちゃん、私を嫌いにはなっていない、ってことなのかな。


「ま、茉莉ちゃんこそ。どうしてこんなところにいるの? それに、今までろくに連絡くれなかったのはどうして? 聞きたいことだらけなのよ、こっちは……」


 一度口を開けたら、次から次へと滝のように質問が飛び出してしまっていた。気持ちの流出を止めることができない。でも。茉莉ちゃんと会話をできている今、幸せと安心を感じてしまっている自分もいた。

 私。茉莉ちゃんに未練たっぷりだったんだ。星梨さん、なんかごめんなさい……。


「もー、おねーさんこそ先に答えてよ! こっちだって色々あったんだから」


 茉莉ちゃんも珍しく声を荒らげ、切羽せっぱ詰まっているように見えた。以前から感情表現が得意そうな茉莉ちゃんではあったけど、なりふり構わず怒り狂っているところを見るのは初めてだ。私、なにか悪いことしちゃったのかな、って気分になってしまった。

 

「まぁまぁ、こんなところで大声をあげても迷惑ですから、どこか場所を移しましょう」


 星梨さんが私と茉莉ちゃんの間に割って入り、仲裁ちゅうさいしてくれる。……星梨さん、本当にごめんなさい、変なことに巻き込んでしまって。

 けど、今、私の脳内は茉莉ちゃんのことでいっぱいいっぱい。とことん、ダメな大人だ。

 冷静さを欠いているのは茉莉ちゃんも一緒で。私たちは、星梨さんに連れられて近場のファミレスに入店することとなった。


「私は星梨といって、冬花さんとは掲示板のサイトで知り合いました。今日は初デートの日で、さっきお会いしたところです」


 まずは、星梨さんが自己紹介をする。

 私と茉莉ちゃんは、飲み物を頼み、一息ついたところだ。少し落ち着いてはきたものの、星梨さんが進行してくれないと、また言い争いになってしまいそうではある。


 席は、私の隣に星梨さん。正面には茉莉ちゃんがいる。なんか学生さんを大人二人で面接しているみたいな感じだ。

 不機嫌そうに頬をふくらませている茉莉ちゃんは、高校生っぽさも滲み出ているし、改めて見ても可愛さは抜群。もしも私が面接官だったなら、容姿だけで採用してしまうだろう。


「へー。おねーさんが、掲示板を使って、ねぇ……。ずいぶんと積極的になったんだね」


 茉莉ちゃんは、抑揚よくようのない声で呟いているが、疑っているわけでもないようだ。うぅ、肩身が狭いんですけど。なんでかわかんないけど、私が浮気しちゃったみたいなことになってるし。どうしてこんなことに……。


「冬花さん、私、もうなんとなくおふたりの関係はわかったので、悔しいですけど今日は帰ろうと思います」


 星梨さんは、空気を読む達人らしい。諦念ていねんめいた吐息をつき、曇り顔なのが哀愁を漂わせている。せっかく色々お話相手になってもらったり、デート盛り上がったりで楽しんでいたのに。今はもう、私の心は茉莉ちゃんにかたむいてしまっている。

 うぅ、星梨さんに、とっても悪いことしちゃった。私、最低な女だ。


「ご、ごめんなさいね、星梨さん。後で、おびはするから……」


「……冬花さん。お相手さん、未成年ですけど、手を出していたらアブナイですよ?」


 星梨さんは席を立ちつつも、こっそりと私に耳打ちをしてくる。

 うぅ、心臓を直に掴まれているのかってくらい、ドキッとした。星梨さんが悪い人だったら、私と茉莉ちゃんのこと通報していたのだろうか。


「だ、だ、だ、大丈夫。私、えっちなこと経験ない、って言ったでしょ?」


「あ、そうでしたね。えーと、茉莉さん? もし、学校に女の子好きのお友達とかいたら、私にも紹介してくださいね」


 星梨さん、抜け目がない。いや、欲望に忠実なのか? 立ち去る際に、しっかりと自分をアピールして出ていってしまった。未成年に手を出したらアブナイと忠告をくれつつ、学生さんと繋がりたいなんて、破天荒な女性だったな、星梨さん。

 ……でも、別れ際、かなり寂しそうにしてたから、後でメールを送って謝っておかないと……。私も、星梨さんに誰かを紹介できればよかったのだけど、私はお友だちすらいないしなぁ……。


「ふーん、おねーさん、ホテルには行こうとしてたけど、色々と未遂だったんだね。あの人キレーだし、簡単にオトされちゃった感じ?」


 茉莉ちゃんと二人っきりになると、彼女は頬杖ほおづえをついて、わった目つきでにらんでくる。ストローで音を立ててジュースをすするところも、私への不信感をあらわにしている。


「そ、そんなわけじゃないわ。茉莉ちゃんが、ずっとそっけなかったから……。何ヶ月も返事すらくれないし、もう飽きられたと思ったから、掲示板に手を出しちゃったのよ……。だから、オトされたとかじゃなくって……恋人がいなくなっちゃった寂しさをまぎらわすため……かな」


 私は、目の前のコップを両手で握り、もごもごと言い訳みたいに呟く。茉莉ちゃんの瞳を見ることができない。どうして私だけが罪悪感のようなものを感じないといけないのだ。あまり私に落ち度はないようにも思えるけれど……。

 しかし茉莉ちゃんは、それでは納得がいかないのか、苦り切った表情を継続させている。

 かとおもったら、今度はいきなり脱力しきったように、長々しい溜め息をついた。まるで、ぱんぱんに膨らんだ風船の空気が抜けているかのようだ。同時に、張り詰めた空気も霧散むさんしていく。


「はぁ……。もう、おねーさん、ほんとわかってない! あたしだって、大変だったんだから!」


 茉莉ちゃんは、私に指をびしっと突きつけ、呆れ顔だった。けど、どうやら私を見捨てよう、って気は一ミリもないらしい。私と徹底的に、お話をしてくれるようだった。


「大変だった、って何かあったの? 受験、忙しそうなのはわかっていたけど……。でも、合格が決まったなら、連絡が欲しかったわ」


 茉莉ちゃん、私のことを幼稚園児くらいに見下しているのか、大げさになげいてみせる。え? 私、何かズレたこと言ってるの? もしかして、茉莉ちゃんのメッセージ、見逃してたものがあったのかなあ? ……そんなわけはないよね。だって、茉莉ちゃんとのラインが生きがいだった私は、一日に何度も茉莉ちゃんからのラインを見てはニヤついていたものだ。一言一句、逃すはずがない。


「こっちはね、お母さんに見張られてて大変だったの。おねーさんとのラインも、怪しまれてたし。ってゆーか、恋人だ、って説明もしちゃったし」


「え……!? へ!?」


 私、ここがファミレスだということも忘れて、奇声をあげてしまった。

 茉莉ちゃん、私の間抜け声がおかしかったのか、昔のように小悪魔めいた顔で大笑いしてくれる。うっ。その笑顔、やっぱりドキッとしちゃう。


 で、でも! 私と茉莉ちゃんの関係がお母さまに知られてる、ってかなりマズくない!? しかも、ラインも怪しまれてる!?


「ね、ねぇ茉莉ちゃん……。もしかして……私のライン、お母さまにチェックされていたりとか……した?」


「うん。だから、あたしのほーから、あんまり送れなかったんだよねー。おねーさん、ヘンなこと言い出しそうだし」


 あっけらかんと答える茉莉ちゃん。

 私はといえば。

 頭を抱えてうずくまりたくなってしまった。あ、穴があったら、入りたい……。


 …………言ってよ!! 茉莉ちゃん!!

 うわぁ……ああああ! 私、なんか変な文章送ってたっけ!? ちゅーみたいなことは、ラインしちゃってた記憶があるんですけど!? ヤバイ! お母さまに目をつけられたら、私、逮捕されちゃうかも!


「おねーさん、やっぱり面白いね♡ 大人のくせに慌てちゃって。なーんも変わってないんだから」


「ご、ごめんね、茉莉ちゃん。そんな理由があったなんて……。私、素っ気なくされてるだけかと思ってた。でも、なんとか隙を見て、こっそり教えてくれてもよかったのに……」


「んー、おねーさんなら、わかってくれるかなーって思ってたんだけどなぁ。それに、あたしが大人になるまではいろんなこと我慢するとも言ってたから、我慢強いんだろうなって信じてたし」


「茉莉ちゃんの言い分はわかったけども……。でもね、さすがに、文章だけで察することはできないわよ……」


 私も、一気に脱力した。茉莉ちゃんのお母さまに、何がどこまでバレてしまっているのかはわからないが、ひとまず茉莉ちゃんに嫌われてはいないことに安堵あんどする。

 安心しきると、次にふつふつと感情が湧き出てきた。

 今まで蓋をしてきていた、茉莉ちゃんへの想いだ。


 私は、がばっと顔をあげて、茉莉ちゃんをしげしげと眺めた。

 うぅ、ようやく茉莉ちゃんの新しい制服姿を堪能たんのうできる。なんか、嫌われていないってわかったからか、目を逸らさないでもいい気がしたのだ。眼福眼福。


 ブレザーに、ツインテール。あどけなさと大人さが融合した、新しい茉莉ちゃんだ。スカート丈が短いのは、ちょっと心配だけど。まあ、覗けるほど短くもないから、強風さえなければ大丈夫そうだけど……。ああ、私、過保護なのかな。


 茉莉ちゃん、ついに高校一年生か。立派な大人よね、もう。


「あーあ、せっかく、おねーさんの寮の近く、受験したのになあ。おねーさん、他の女の人とホテル行っちゃうんだもんなー」


 私が茉莉ちゃんを見つめてご満悦になっていると、彼女は意地悪を思いついたのか、わざとらしく語気を荒らげて呟いてきた。

 うう……。確かに、私、結果だけを見れば悪いことしちゃったけども……。しかも、茉莉ちゃんと星梨さん、二人の女の子を不幸にさせてしまった。なんて最悪な女なんだ、私は。


「み、未遂だから、セーフにして……? 私だって、茉莉ちゃんに新しい彼氏とか彼女ができちゃったのかな、って勝手に沈んでたんだから……。わかって、ほしいなあ、なんて」


「あたしのこと、ぜんっぜんわかってないんだね、おねーさんって。ショックだなー。今日だって、制服取りに来るついでに、おねーさんに会いにきたっていうのに」


「あ、ああ……。だから、今日はこの街に来てたのね。でも、どうしてホテルのところにいたの?」


「ホテルのとこにいたっていうか。おねーさんがカフェで女の人といるの見つけちゃったから、ついてってみた」


 茉莉ちゃん、したり顔で腕を組む。その風格たるや、まさに名探偵。

 にしても、偶然、私を見つけたってわけか……。奇跡的すぎる。これもう、茉莉ちゃんと運命で繋がってるよね?


「もしかして、制服を受け取った後は私に会ってくれるつもりだったの?」


「まーね。さすがにおねーさんのこと放置しすぎちゃったし、受験も終わったからね。あたしも高校生になったから、お母さんも少しは自由にさせてくれるみたいだし」


「そうだったのね……。お母さまの目がゆるくなったのなら、先に連絡がほしかったわ……」


「ま、高校の制服見せるの、サプライズにしたかったし。どうせおねーさん、残念美人だから、寮に引きこもってると思ってたし」


 私が後ほんの少し我慢できていれば、誰も不幸にならずにすんだのか。ちょっとメンタルダメージが大きいかも。大人しく引きこもっているのが正解だったなんて……。


 私が縮こまっているのを見かねたのか、茉莉ちゃんは柔和にゅうわに微笑んでくれる。私、浮気っぽいことしたのに変わりはないけど、これ以上責めてくることはないようだ。


「ね、ねぇ、私って、お母さまにどんな風に見られているの? っていうか、なんで私たちのこと言っちゃったの!?」


「ん~。言っちゃった、っていうかさー。あたし、百合漫画けっこう買うようになっちゃったから、それ、お母さんに見られちゃって。おねーさんともこんな関係なの? って聞かれちゃったから、普通に答えちゃった」


 茉莉ちゃん、百合漫画にハマってくれたのは嬉しい。さっき、茉莉ちゃんが不意に漏らしてた「残念美人」って単語も、私が購読している漫画に出てたしなあ。だいぶ影響は受けてくれたみたいだ。

 けど、まさか、百合ジャンルといえども、たかが漫画を見つけただけで私との関係を疑うなんて。茉莉ちゃんのお母さま、私と茉莉ちゃんの距離感が近いこと、やっぱり見抜いていたのか。さすが母親。


「えーっと、答えた、ってどこまで……? 私、お母さまに敵視されていたりするの……?」


「ん~。お母さんも頭固いからねー。女同士、認めてくれるか心配だったけど……おねーさんがあたしに手を出していないの知ったからか、少しは信頼してくれてるみたいだよ」


「そ、そっか……。いずれ、きちんとご挨拶しないとね……」


 私がビビリだったおかげで助かったわけか。いやね、私だって茉莉ちゃんとえっちなこと、いっぱいしたいよ、そりゃ! でも、未成年に手を出したら犯罪だからね……。


「ま、どうせおねーさんとお母さん、そのうち会わせないといけないから、バラしちゃってもいっかな、ってのはあったけど」


「あはは……。私のこと、かなり考えてくれていたのね……」


 私、恋人失格か。茉莉ちゃんの気持ち、全然理解できていなかった。将来のことを真面目に考えてくれているほど、愛されていたのに。私は茉莉ちゃんを疑ってしまった。信じることができなかった。……でも、後一日でも茉莉ちゃんからの連絡が早ければ、ここまで落ち込むこともなかったのに。不幸中の幸いなのは、星梨さんと未遂ですんだことくらいか。少し、ときめいてちゃったけど。


「そーだよ。それなのにおねーさんってば、あの人にデレデレしてたの見てたんだからね」


「だ、だって……。ご、ごめんなさい……」


 私はうつむいて謝ることしかできなかった。……星梨さんとご一緒したカフェでは、茉莉ちゃんのおっしゃるとおり、すごくデレデレしちゃったし。星梨さん、女性の扱い上手なんだもの。


「まーいーや。後でしっかりと罰は受けてもらうからね? ってことで、おねーさんの部屋いこ? 久々に寮に行ってみたいし」


「え……。お時間は大丈夫なの?」


「少しくらいなら大丈夫だよ。それに、高校も近くだしね。今度からちょくちょく遊びに行っていいでしょ?」


「そ、それはまぁ。お母さまにしかられない程度なら」


「おねーさんのところなら大丈夫ってお母さんに認めてもらわないとね? ってことで、早く行こ?」


 茉莉ちゃん、ウキウキと立ち上がる。この強引さ、久々だなぁ。星梨さんも強引なほうだったけど、茉莉ちゃんとはまた別だ。

 星梨さんからはエスコート、的なものを感じたけど。茉莉ちゃんの場合、私を茉莉ちゃんという沼に無理やり引きずり込んでくるかのような、背徳感さがたっぷりなのである。


 ……お母さまに信じてもらうには、清いお付き合いを続けていればなんとかなりそうだ。大丈夫。今まで茉莉ちゃんの誘惑には耐えてこられたし。放置されるよりかは、楽勝だ。茉莉ちゃんが成人する頃の私の年齢は考えたくもないけれど、飽きられないようにスキンケアとかも必死にこなさないとね……。


 私と茉莉ちゃんは、二人の出会いでもある小春荘――私の部屋に辿り着いた。

 積もる話、いっぱいある……。一日では語りきれないくらい。

 

 それは彼女も同じだったのか、私たちは一年の空白期間を埋めるかのように、言葉をつむぎ続けた――。

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