第3話 彼女と理子の認識

「で、それのどこが悩みなのよ?」


 幼馴染のアパートの部屋で、幼馴染の友人が呆れたようにため息をつく。


「ちょ、理子りこ、私がどんな覚悟で相談してるか分かってる? すっごく悩んで打ち明けたのに、今って、ため息つかれるとこ?」


 私が赤面かつ涙目で詰め寄ると、さすがの理子も少したじろぐ。


「あ、いやあたしには惚気のろけにしか聞こえないんだが……」

惚気のろけって、だって考えてもみてよ! 何度も何度も、生まれ変わるたびに同じ人に出会って、そうやって長い時間を一緒にいて、言葉も、想いも擦り切れるくらい交わし続けて、そういった記憶が一気に浮かび上がってくるんだよ? この記憶を持っている私ってこれまでの私と同じなの?」

「え、あたしには同じ人間に見えるけど? あんた、人格を過去に乗っ取られたりしてんの?」


 理子はグラスの焼酎を一口飲み、半身を引きながら聞いてくる。


「私は私よ!」

「結論出てんじゃん」

「もう、そうじゃなくて!」


 私も酔っている自覚はある。でも飲まずにこんなこと相談なんかできない。やってられるかコンチクショーってやつだ。


「めんどくせえな……いいか、まとめるぞ? あんたは昨日、大恋愛の末に恋人になった大好きな彼と初めて結ばれた」

「うん、長かったな……いろんな障害がテンコ盛りだったから、喜びも一入ひとしおよね」

「うっとりしながら反芻はんすうしてんな。で、一夜明けて相手の顔を見た瞬間、これまでの前世だか、過去だかの記憶が蘇ってきたと」

「うん……そう」

「で、それはどんな記憶なんだよ」

「いろんな大恋愛の記憶よね、出会い、絆を深め、あれ? この気持ちってなに? から恋心が芽生え、ゆっくりゆっくり愛を深めていくの、そうやって幸せのまま人生を終えるの」

「ハッピーエンドじゃん」

「だから、それをいろんな時代、いろんな場所、いろんな人種で味わっているんだってば! 思い出そうとすると名前とか地名みたいなものは覚えてないけど、交わした言葉は覚えてる」

「たくさんのハッピーがエンドレスじゃん」

「だから! 前は出会ったときに過去を思い出せたけど、ここ最近は深い仲にならないと思い出せないんだってば! つまり取返しが付かないレベルになって初めてその事実に気づくのよ? それって残酷じゃない?」


 理子は若干頭を抱えながら瞑目している。この程度で酔ったのかしら? 珍しい。


「あのな、まっとうな返しをするけどさ、あんた、彼のこと嫌いなの?」

「そんなはずないでしょ!」

「じゃあ何が問題なんだよこのアマ!」


 理子がキレる。ホント短気な子なんだから。


「いい? 何度生まれ変わっても出会って、好きになっちゃうの。これって私の意思なの? それとも過去の私の願いなの?」

「今生では思い出す前に好き合ったんだろうが」

「それはきっと無意識下で意思決定が行われていたのかも」

「……それ、証明できんの? あんたの深層心理なんかあたしにもわからんよ」

「だからね、困ってるの。私の今の気持ちって、結局は過去の土台の上に成り立ってるだけの予定調和みたいなものなんじゃないかって」


 理子は再び頭を抱え、焼酎をグラスに注ぎ、一息に半分飲んだ。


「で、あんたはどうしたいのよ」

「どうすればいいと思う?」

「好きなら続けて、嫌いなら止めればいいじゃん」

「好きだけど離れたいって、ダメ?」

「ダメじゃないけど、なんの解決にもなってないだろ? 今生は捨てて、来世で出会わないことを待つつもり?」

「……」

「いずれにせよ、きちんと二人で話ししなよ、勝手にそれぞれの願いを通すんじゃなく、二人で最適な道を選びなよ」


 理子は優しそうに笑い、グラスの残りを一気に呷った。

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