第4話 彼と彼女の願い
「今回はしょうがないとして、今度生まれ変わったら、別々の道を歩きたい」
結局のところ、今回の人生で出した結論は二人とも同じものとなった。
「しょうがないよね。今回も、もう深い仲になっちゃったことだし、理子や仁くんにも仲を取り持ってもらった手前もあるし、二人の努力を無駄にしちゃいけないっていうかなんというか」
「まあそうだな、仕方ないことだ。それに知ってる? 仁ってさ、理子ちゃんのことが好きみたいなんだ」
過去を思い出した直後は、様々な感情が揺らぎ不安定になっていた二人だったが、とりあえず結論は来世に持ち越すことで葛藤に決着をつけていた。
「でもさ、次はちゃんと自分たちの好きに生きようね。これまでのことは思い出さないようにして、過去と決別しよう」
「ああ、そうだな。僕たちは、ちゃんと自分たちの意思で選べるようにしよう。運命や過去の誓いのせいにしないように、記憶を全部リセットしよう」
死が二人を分かち、これまでの二人の絆も分かつことを共に願い合った。
そして彼と彼女は、肉体が滅する最後の瞬間まで、寄り添いながら長い時を共に過ごした。
※※※
桜の花のように、季節を感じさせる情景はいつも何かを想起させる。
それが四月であるならば、それは出会いの記憶がふさわしい。
「なあ、ともだち百人できるかな」
桜舞う中、高校の校門をくぐると、隣に歩く真新しい制服を着た幼馴染が目を輝かせながら声をかけてくる。
「ジンは本当にコミュ力が高いよね。僕は対人関係は面倒だから友達はジンだけでいいかな」
「お前、せっかくの高校デビューで枯れたこと言ってんなよ、せめて彼女の一人や二人くらい見つけろよ。だいたい、これまでの15年で好きになった女の子がいないなんて、ちょっと不健全すぎるだろ」
「ジンが異常なんだろ? 男女問わず片っ端から好きになるとか、博愛主義も度を越してるってば。僕はさ、好きな人は生涯でただ一人いればいいよ」
「お前なぁ、そんなこと言って理想を追い求めて一生を終えたらどうするんだよ」
「別に、そういう相手に巡り合えなければそれでいいよ、それが運命ってもんだろ?」
片翼は誰でもいいわけじゃない。
僕はきっと、たった一人の誰かを探し続けている。
「なあ、あの二人、ちょっといいと思わないか?」
ジンが僕の耳元でささやく。
彼の視線を辿ると、クラス分けの掲示板の前にいる二人の女子生徒がいた。
二人ともA組だね、とハイタッチをしている姿をぼんやりと眺める。
快活そうな栗色の髪の少女と、まるで僕の理想を体現したかのような黒髪の少女。
その黒髪がふわりと流れ、視線が絡まる。
「あの二人もA組か、なあ俺たちもA組だぜ」
ジンはさっさとクラス分けの掲示板を眺め、これから迎える一年間の関係性を伝えてくれた。
正直、僕はその声をほとんど聞いていなかった。
黒髪の少女と僕の視線は、時間が縫い付けられてしまったように固着していた。
「よ、お二人さん。俺たちもA組なんだ。これから一年間よろしくな」
ジンは軽薄そうなノリで二人の少女に声をかける。
「なんだか気安い男が来たわね、この子は男性恐怖症なんだから気安く話しかけないでよね、ってあんたどしたのよ」
栗色の髪の少女が辟易とした声で反応した後、僕と視線を合わせている少女の異変に気づく。
「お、どしたどした? 二人ともさっそく恋にでも落ちたのか?」
「ありえないわね、この子、これまで男に興味持ったことなんかないんだから」
お互いの連れの声を無視し、僕と彼女はそれぞれに歩を進める。
小さなつぶやきがお互いに届く距離に。
「どんなに離れようとしても、出会ってすぐに好きになる呪いって、あると思う?」
彼女の真顔の問いかけに。
「そんな幸せしか生まれない呪いって、もはや呪いでもなんでもない気がする」
僕が笑って答えると、彼女もやっと微笑んだ。
何も思い出さない出会いだけど、彼女が僕の探していた片翼であることはすぐにわかった。
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