第3話 天使の恩返し

女の子はいつも絵本の世界に行く事を夢を見ていました。


いつかこんな世界に行けるのだと本気で信じていた少女はある日知ってしまいました。


この絵本の世界が訪れる事がない事を。


女の子は悲しみました、魔法も喋る動物もいないこの世界で私は一人生きなければならないのかと。

退屈な世界でしか私は生きられないと知った女の子は、世界を憎み嫌いになりました。


世界が嫌いな少女は、その世界に居る人も嫌いになりました。


そして世界は女の子を嫌いになりました。

元々少ない女の子の元から一人、また一人と人は消えて行きます。

でも悲しくはありません、むしろ喜びました。


この嫌いな世界との繋がりがまた少し減ったからです。


この世界との繋がりを無くせば幸せになれるのではないのか。

女の子はついには自分だけの世界に閉じこもる事を選びました。


そんなある日の事です、女の子の前に絵本の中の王子様が現れます。

王子様と仲間達は嫌いな世界の悪者から、魔法や剣使って女の子を守ってくれました。


女の子は喜びます、私はついにあの物語の世界に来たんだと!

女の子は勇者とその仲間達と旅をしました。


野を超え山を超え、色んな人達を救い、色んな冒険をして女の子知ります。

勇者とその仲間達は私と同じただの普通の人でした。

魔法も剣も使えません。


でももう女の子はこの世界を嫌いになる事はありませんでした、だってこの世界は絵本の中よりも美しく輝いていて、私をドキドキワクワクさせてくれると気がついたからです。


おしまい。



「どうでした、昔話は?」


「面白かったよ、将来は作家になれる」


「なれませんよ、私のランクでは創作を発表する事は認められてないですから」


「心のランクは?」


「Dですね」


「そうか、辛いな」


「リーダーに比べたらまだいい方ですよ」


「他のみんなは?」


「それは秘密です」


口に人差し指をあててぎこちない笑みを浮かべた。


「それにしても不思議な気分です、3年前にはあまり私より小さかったのに急に大きくなって、男っぽくなりましたね」


「成長期が始まったからね、急に伸びたよ」


「やっぱり少し合わないだけで雰囲気が変わりますね」

「でも優しそうな感じは昔のままで嬉しいです」


「そっか・・・でも僕はもう昔みたいに皆をまとめ上げる力もなければ、冒険する力も助ける力も持ってはいないんだ」


「そんな物は無くていいですよ、皆が勝手にリーダーについて行きます」


「でも天野は居なくなった」


悲しそうに僕を見て笑う。


「もう少し仲間を信頼してください、皆に会う機会は昔に比べて少なくなったかもしれませんけど今でもここにちゃんといますよ」


「後はリーダーの指示だけです」


「Eランク評価を受けた僕にその資格は無いよ」


このシステムの評価は今の生活には絶対だ。

頭の良さや学力、体力に性格などの総合的な評価にランクを用いてる事とを誰もが認めている。


ランクによる差別やいじめなんて物はないが、確実に見えない壁は存在する。


「世界のみんながあなたを認めなくても、私があなたを認めます。

こんな評価であなたはくじけちゃダメです」


「じゃあどうすればいいんだよ」


「私達がこの世界に新しい物語を作るんです。自分が正しいと思える世の中を」


「そんなの出来る訳ない、この期間で思い知ったよ。世界は自分が望めばいくらでも変えれると思ってた。でもメール一つで回りも自分もこのざまだ」


「出来ますよ。私の世界を変えたのは政府でもなく、国でもなくリーダーです」


「もうそんな事忘れたよ」


「なら思い出して下さい」


急に目の前に心が目の前に顔を近づく。


「あの日、私の手を取って一緒に連れてってくれたあの日の事を」


「世界は広いんだぜって連れ出してくれたあの日の事を」


「私に恋を教えてくれたあの日の事を」


「この世界の楽しさを教えてくれたあの日の事を」


「二人で虹を見に行ったあの日の事を」


「私たちと一緒にいたあの日の事を」


脳裏にあの日の、あの頃の記憶が溢れる。

みんなが、仲間がいえば何でも不可能は無かった。

出来る気がする、でもこんな一時の感情に流されて決めていいのか?

後悔しないのか?辛い目に合うのではないか?やらなきゃ良かったって思わないのか?


頭の中で最後通告が鳴り続ける


ほほに暖かくて、柔らかい感覚がした。


頭の最後通告はいま止まった。


「さあ立って下さい、リーダーみんなが待っていますよ」


「そうだね・・・いやそうだな」


ゆっくりと体を起こす。


「俺らなら出来る、この世界を俺の物に変えてやる!」


ソファーから飛び降りて俺は手を突き上げて叫んだ。


「俺は世界を支配する男、白井 一弥 だ!」

「世界を俺の思い道理にしてやる!ロボットごときに、俺の野望を邪魔させる物か!」


「今ここに宣言しよう、我らリバリオンは今の管理体制を打ちこわし人が自ら選択し、判断出来る自由な社会を作ると!」


止まっていたコンピュータが一斉に起動し、モーターのファンの音が響く。

ぞろぞろと何人かの足音が近づいてくる。

ああ、また始まるあの日の続きが。








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底辺ロミオと高嶺のジュリエット @Contract

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