第2話 残された僕は

結果が届いてから数日、僕は学校を始めて仮病で休んだ。


「もう何もしたくねぁーな」


学校ではまさかEランクが出るとはと瞬く間に噂になった。


Eランクはまず出ることがなく、全国規模で見ても毎年100人位な物でその内の大体が低いランクしか通わせられない学校から排出されているため、僕の通う学校では開校以来、3人程しか出ていない。


天野と別れた日の夜にはメールは届いていたが、親にも周囲にもいつまでもランクを隠して置く事が出来ず、次の日の夜には家と学校にランクを明かした。


メールが届いた夜の事を思い出すこと手が震える。


天野との事を思い出してニヤニヤして思い出していると、メールが届いた。

舞い上がってた僕はきっといい未来が待ってると思って開いた。


バカだった、いや身構えた所で結果が変わる事は無かっただろうけど。

何度見返しても書かれているのはEランクで変わらず、管理局に問い合わせても変わらなかった。


「もう何もしたくない、このまま死ねないかな」


親も周囲も優しかった。

ランクを伝えた時、父も母も呆然としていた。

でもしばらくすると、父は


「お前は俺の息子だ。悪いのはお前じゃない、俺だ」


と震えながら呟き、母は泣きながらただ抱きしめてくれた。


八つ当たりでもされた方が100倍マシだった。


「親不孝な俺にそんな言葉を吐くな」


次は学校と学校の友達に明かした、どうせカリキュラムでいつかはばれる事だ。


そんな僕に優しく声を掛けてくれたし、励ましてくれた。

素っ気なくあしらってもだ。


ご飯は誘ってくれるし、遊びにも誘ってくれる。

ランクの話も将来の話も僕の前じゃしない。



もう話しかけないでくれ、その優しさが痛い。

鬱陶しい。


「お前らなんか全員キライだ。」


そして一番辛かったのは天野が居なくなった事だ。

理由は誰も知らない。


「俺にくらい教えてくれよ、天野」


メールも電話も返って来る事は無かった。

なぁどうしてだよ、俺たち両想いなんじゃないの?

互に大切なんじゃないの? 


何で俺を裏切れるんだよ。


「天野なんか・・・」


言葉の続きは出てこなかった。





__________




仮病を使って何日たっただろう、一週間?それとも一ヶ月近くか。


ご飯は朝も夜も部屋の前に親が置いていてくれた。


時刻は深夜に入った。暗転したパソコンに写った自分を見て無意識だったと思う。

この世界から逃げ出したくて秘密基地に歩き出した。


夜道はとても暗かったが怖いとは不思議と全く思わない。

それよりも、一歩秘密基地に近づく度に天野や昔の仲間との思い出がこみ上げるのが辛かった。


秘密基地の三階に向かいソファーに座ると安心したのか眠気が押し寄せて来た。


「おい、白井!無事か?」


まどろむ意識の中で誰かが呼ぶ声がする気がしたが、反応する事は無かった。


眩しさに顔をしかめ、目を開くと可愛い女の子が居た。

紺色のふわふわとした髪に、光が当たり輝く。

その姿はまるで天使だった。優しく穏やか顔に、ふわっとした柔らかい体。


心だ。


2年位会っていなくて雰囲気は変わっているけど間違えない。


でもなんで?


周囲を見渡すと秘密基地で昨日の事を思い出す。

体には布団を掛かっていて、頭の下には柔らかい感触があった。


「おはよう、リーダー」


「その呼び方は止めてくれ、照れる」


「よく眠れたみたいだね、顔色が良くなったよ」


「久しぶりにちゃんと寝れたからかな」


いくらか心が楽になった気がした。


「何でここに?」


「監視システムに白井が写ったって創太君から連絡が来てね、それで私が見に来たんです」


「そっか」


「メールの返事くらい頂戴です」


「ごめん」


心配のメールがうっとうしくて、ずっとメールは見ていなかった。


「それより約束すっぽかすなんて酷いです」


「約束?」


「やっぱり忘れてましたか、天野ちゃんから聞いてるですよね?」


「・・・あ」


「も~」


やれやれとため息つく。


「忘れて無かったらこんなにやつれ無くて済んだのです」


柔らかい感触が、顔をなぞる。


「どうゆう事?」


「リーダーがEランクなのも、天野ちゃんが居なくなったのも私達は知ってたんです」


「そりゃ、時間があれば分かるでしょ?」


「そうじゃなくて、ランク公開前から全部私達は知ってたんです」


「知ってた?」


「そう、知ってました」


「・・・怖い顔しないで下さい」


頭を優しく撫でられる。


「あっごめん、別に怒ったとかじゃないんだ」


ただ色んな感情がなだれ込んで、知らない内に顔がこわばった。

いや、怒ったのか。


「ごめん、少し怒った。でも理由があるんでしょ?」


「もちろんです」


優しい顔のままだが、目は僕を真っ直ぐ捉えていた。


「ただね、リーダー。世界を変える覚悟はあるのかな?天野と私達の為に世界を変える覚悟」


「どうゆう意味?」


「そのままの意味です、世間も世界もマスコミも政府も家族も友達も知らない人もネットも私達の為に敵にする覚悟」


「無いって答えたら?」


「私がリーダーのお嫁さんになってあげます、駆け落ちですね。」


「そんな事出来るの?」


「分かんないです、ただ全力で私達は、仲間はリーダーがどんな道を選んでも幸せにしますよ」


彼女は優しい笑顔で笑った。


「ただその覚悟がないなら、天野ちゃんの事も他の仲間の人の事も詳しくは教えられないです。それがリーダーにとっての一番の幸せになるからです」


「今の僕には、どっちも・・・」


「どっちも選べないは無しです」


被せるように遮られた。


「今すぐには無理だよ」


「じゃあ決めるまで私がある少女の昔話をしてあげます。むかーし、むかし。

ある街に怖がりで臆病な女の子が居ました」










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