新人冒険者──カイ・リナウド

「えっと……確かここでいいんだよな?」


 1人の若い冒険者の男は緊張しながら、ギルド長室の扉の前に立っていた。


(うぅ……なんか緊張するなぁ……)


 この若い冒険者は成り立ての新米であり、まだ自分の能力を正確に把握できていないため、ギルド長から指導を受けに来たのである。 


 ちなみに彼の名前は――カイ・リナウドという。


「すぅー……はぁー……」


 カイは深呼吸をしてからゆっくりと扉を開けた。そして恐る恐る中に入っていったのだが、そこに広がっていた光景を目の当たりにして思わず言葉を失ってしまった。


(えっ……)


 そこには椅子に座っているギルド長がいたのだが、その隣には足を組んであくびをしている冒険者が座っていたのである。


(な、なんだこの人?)


 カイはギルド長の隣に座っている冒険者が背負っている巨大な大剣を見て驚愕した。


(えっ!? この人……あんなでかい剣を使ってるのか!?)


 その大剣の巨大さ故に、カイは思わず目を疑ってしまったようだ。

 だが、それも無理もないことだろう。

 なぜならその大剣はとても人間が扱えるような代物ではなかったからだ。


 すると、ギルド長がカイに声をかけた。


「おお! やっと来たか! 待ってたぞ!」


「あ、はい……すみません。お待たせしてしまって……」


「気にするな! それでは早速始めるとしようじゃないか? まずは自己紹介からだな」


 ギルド長はそう言うと椅子から立ち上がり、カイの目の前にやってきた。

 そして彼に自己紹介をするように促した。


「えっと……名前は、カイ・リナウドと言います。よろしくお願いします!」


 カイが緊張しながらも挨拶を終えると、ギルド長はなぜか苦笑いを浮かべていた。

 しかし、すぐに気を取り直して話を続けた。


「それじゃあ早速だが、まずはお前の職業を教えてもらおうか?」


 その質問に対してカイはこう答えた。


「はい! 僕の職業はウォーリアーです!」 


 と自信満々に答えたつもりだったのだが、それを聞いた瞬間ギルド長の表情が一気に変わった。

 そしてカイが困惑していると、彼は頭を抱えながら深いため息をついた。


「はぁ……お前なぁ……」


(え? なんかまずかったかな?)


 カイは自分が何かミスをしてしまったのではないかと不安に思っていたのだが、ギルド長の口から出てきた言葉は意外なものだった。


「いいか? ウォーリアーというのは魔法職の一種だ」


 とギルド長が言ったが、当の本人はまるで意味が分かっていないようで、困惑した表情を浮かべていた。


「ウォーリアーは他の魔法職と違って近接戦闘に特化した職業なんだぞ」


(う、嘘だろ!? そんな重要な事、全然知らなかった!!)


 ギルド長からの説明を聞き終えた瞬間、カイは自分の無知さ加減を呪ったがもう遅い。

 今更後悔してももう遅いのだ。


「ご、ごめんなさい……」


 カイは申し訳無さそうに謝罪の言葉を述べると、ギルド長は気にするなと言って優しく語りかけた。


「まあ、誰だって最初は勘違いするものだ。これから頑張って勉強すれば良いさ」


「……はい! 頑張ります!!」


 カイの返事に対して、ギルド長はさらに褒める言葉をかけて励ました。


 ギルド長からステータスカードを受け取ったカイは、自分のステータスを確認し始めたのだが……そこに書かれていたのは『バーサーカー』という文字であった。

 それを見た瞬間、彼は驚きのあまりに言葉を失ってしまったようで、その場に立ち尽くしたまま動くことができなかった。


 カイは自分のステータスが間違っているのではないかと思い、ギルド長に慌てて確認をしようとしたのだが……それを遮るかのようにギルド長が口を開いた。


「ふむ……やはり『バーサーカー』であったか」


 と冷静な態度で言った後、ギルド長はカイに向かってこう言った。


「まあ別にいいんじゃないか? お前には合っていると思うぞ?」


 それを聞いてカイは思わずキョトンとしてしまった。


「え? それってどういう意味ですか?」


 カイの質問にギルド長は笑いながら答えた。


「そのままの意味だ!」


「えっと……どういう意味ですか?」


 カイはさらに質問を投げかけたが、ギルド長は笑っているだけで何も答えてくれなかった。


(なんだよこの人!)


 カイは心の中でそう叫んだが、それを口に出したところで何かが変わるわけでもないので黙っておくことにした。


「よし! それじゃあ早速だが、お前には冒険者としての基礎を学んでもらおうと思う!」


「はい……。えっと……ギルド長が教えてくれるんですか?」


「いいや。私ではなくコイツだ」


 ギルド長は足を組んで座っている巨大な大剣を背負った冒険者を指指した。

 男はため息をつきながら椅子から立ち上がると、頭を掻きながらカイに自己紹介をしだした。


「今日からお前の育成をするリーヴ・レクトルだ」


(え? この人が僕の先生なのか?)


 カイは困惑しながらも彼に向かって軽く頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします」


 リーヴと名乗ったその男は、一言で表せば『厳つい』という言葉がぴったり当てはまる男だった。年齢はおそらく二十代前半といったところだろう。身長は180センチほどで、髪は黒色の短髪だ。目鼻立ちは整っているものの、その鋭い目つきのせいで威圧感があるように見える。服装も黒を基調とした服が多く、背中には巨大な大剣を背負っている。


 武器と防具の全てが黒色で統一されており、その姿はまさに【黒騎士】と呼ぶに相応しいものだった。

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