第7話 村長達の末路②
「お前等のやりとりは聞いていた。村長という立場でありながら罪もない村民に手をかけようとするとは……」
保安部隊隊長の言葉に村長は顔を蒼白にする
自分がトムに向かって矢を放った現場をニック=ブルースターをはじめ、多くの保安部隊の人間に見られてしまっているので言い逃れができない。
村長は必死になって言い訳をする。
「い、いえ……こいつは、とんでもない奴なのです!! わ、私はクマの着ぐるみを使ってゴリウス様を騙そうとした罪人を成敗しようとしたまでです」
村長の見苦しい言い訳に部隊長は不快そうに眉を寄せ、村長に何かを言い返そうとしたが、その前にニック=ブルースターが口を開いた。
「何故トムが無茶な変装までしてゴリウスのおっさんの元に行かなくてはいけなくなったのか? それが最大の問題だろう?」
原因を突き止められたら都合が悪い村長は顔を青くして、必死になって
「げ、原因などどうでも良いではないですか! 罪人は罪人です! 早くこのトムを捕らえてください」
「おう、罪人は早く捕らえないとな。
ニックが唱えた瞬間、職員と村長、そして子飼いの冒険者たちは見えない紐によって拘束されることになる。
「ちょ、ちょっと待ってください! 捕まえる相手を間違えています!」
叫ぶ村長にニックは冷ややかに答える。
「間違えていない。あんたはトムを殺そうとした罪人だ」
「それは先程も申し上げたではありませんか! 私はゴリウス様を騙そうとした村民を断罪しようとしたまでで」
「偽クマの件については、既にゴリウスのおっさんも許している。大運動会に出場したことでトム達の償いは終わっているからな」
「大運動会……くっっ……まさか、あんなに偽物が名乗りを上げているなんて……」
村長は悔しげな表情を浮かべた。
ニックは可笑しそうに笑いながら一枚の手紙を取り出した。
「あんた、ご丁寧にこんな手紙を出していたんだな」
「そ、それは……!!」
「ゴリウスのおっさんは匿名の手紙には特に用心していてな。消印はベルギオンになっていたが、手紙の模様がトナート村にしか咲かない花の模様だった。この手紙についても調べるようゴリウスのおっさんから頼まれていた」
「……っっ!!」
村長の背中に冷たい汗が流れる。
消印はトナート村だとまずいと思ったので、弟に頼んでベルギオンのポストに投函させた。
(あの便せんは村の雑貨屋で購入したものだが……花の模様も単純だし、どこにでもある便せんだと思っていた)
植物には疎かった村長は、その便せんの模様がこの村でしか咲かない花だとは知らなかった。
「惚けても無駄だぞ。スコット家に送られてきた縁談の手紙の字と、匿名で送られてきた手紙の筆跡が全く同じだったからな」
「……」
村長は事あるごとにノーラ宛てに、ゲイルと結婚をするよう勧める手紙を送っていた。その手紙の字と匿名の手紙の字を専門家が筆跡鑑定したのだろう。
ニックは匿名の手紙を読み始めた。
「何々……? 【ゴリウス=テスラード様にお知らせしたいことがあります。近いうちに偽物のクマが現れます。その男は懸賞金を騙し取ろうとしています。一緒に来ている女性は、偽クマに騙されているだけだから助けるようお願いします】成る程、トムは牢屋に入れたまま、妹の方だけは助ける算段だったわけか」
トムは拳を握りしめる。
村長は最初から自分がゴリウスに投獄されることを狙っていたのか。
もし偽クマを名乗り上げているクマの数が少なかったら、トムは間違いなくゴリウスの怒りを買い、牢に入れられていただろう。
何故そんなことをしたのかは想像がつく。
村長は何としてでもノーラを自分の息子ゲイルと結婚させたかったのだ。
父は病に倒れ、母も看護と仕事で疲れ切っている。
あとは稼ぎ頭であるトムさえなんとかすれば、ノーラはゲイルの元に嫁がざるを得ない状況に追い込まれる。村長はそれを狙っていたのだろう。
悪事が暴かれた村長は呆然としていた。
その時一緒に拘束されたギルドの職員が引きつった表情で訴えた。
「私はトムを殺そうとはしていません! 村長と私は無関係です!!」
村長とは無関係だ、と訴えた瞬間、村長は額に青筋を立てて喚く職員を睨み付けた。どう見ても無関係じゃない間柄だ。
ニックはそんな二人の様子を冷ややかに見て言った。
「あんた村人から不正に受験料を徴収しただろう?」
「受験料? 何の話ですか? そんなもの私はとっていない……村人が勝手に解釈して払っただけで」
とんでもない惚け方をする職員に、トムは肩を怒らせたが、ニックはその言葉を待っていたかのように、したり顔になる。
「受験料は百万ゼノスなんだってな。あ、しっかり魔石にも記録してあるから」
ニックがサイコロ型の魔石を取り出し、「
『受験料は値上がりした。百万ゼノスだ』
『上からの命令なんだ!! 受験料は百万と決定した』
『受験料は値上がりした。百万ゼノスだ』
『上からの命令なんだ!! 受験料は百万と決定した』
職員は目に涙を浮かべ、がくりと項垂れた。
録音効果がある魔石は一度記録した声を何度も繰り返して再生する性質があり、それを止める術は今の時点ではないらしい。魔法の効力が消えるまで延々と録音した声を再生し続けるのだ。
ニックはもう一度村長の方を見て言った。
「あと、あんたの弟が経営している薬屋、今国王軍の捜査が入っているからな。薬師が違法薬物を売るのは重罪行為にあたる」
「い……違法薬物とは何のことでしょう?」
引きつった顔で惚ける村長。
ニックは淡々と罪状を告げる。
「あんた等がトム達に回復薬と称して売っていた薬だ。人間の体力を消耗させる毒が入っていた。死にはしないが、売るのは禁じられている違法薬物だ。しかもそれを売りつけ、かなりの金も取っていたから重罪だ」
「わ……私は薬の販売には関わっていない」
「お前の弟が、そう言い張ってくれればいいけどな」
「……」
村長は絶望のあまり白目を剥いていた。
弟は口が軽い。少し問い詰められたら、自分がトム達に毒薬を売りつけるよう依頼したことを喋ってしまうに違いない。
ギルドの保安部隊に連れて行かれる職員、そして村長。
父親が連れて行かれるのを見た村長の息子ゲイルは目に涙を浮かべて怒鳴った。
「何だよ! パパ! 俺とノーラちゃんの結婚はどうなるんだよ!! 俺、楽しみにしていたのに!!」
「おおお、すまない。パパはもうどうすることも出来ないんだよ」
父親の言葉に子供のようにわんわんと泣き出すゲイル。
父親はそんな息子の姿を見てオロオロしている。
二十代後半の男とその親の図とは思えない異様な光景だった。
ゲイルは逮捕された父親の心配をするどころか、おもちゃが欲しいと駄々をこねる子供のように声を上げて泣き続けていた。
ちなみにニックが持っているサイコロ型の魔石はまだ効力を発揮したままだった。
『受験料は値上がりした。百万ゼノスだ』
『上からの命令なんだ!! 受験料は百万と決定した』
『受験料は値上がりした。百万ゼノスだ』
『上からの命令なんだ!! 受験料は百万と決定した』
『受験料は値上がりした。百万ゼノスだ』
『上からの命令なんだ!! 受験料は百万と決定した』
言った職員が恥ずかしくなるくらい、その声は何度も何度も繰り返され村中に響き渡ったという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます