第6話 村長達の末路①

 その後、トムとノーラは、無事に家に戻り、ニック=ブルースターに貰った薬を父親に飲ませた。

 すると父親はみるみる身体が回復したという。

 村長が薦めていた薬はいくら飲んでも病が治る兆しがなかったのに。

 それだけ酷い病気なのかと思っていたが、ニックがくれた回復薬を飲んだ瞬間、父親の顔色は良くなり、三日も寝たら体力、気力がすっかり回復したのだという。

 この時になって初めて、トムとノーラは薬をすすめていた村長に対して、疑問を抱くようになった。


 ◇・◇・◇


 病気が治ったとはいえ、父親も長いこと寝たきりだった。

 身体を鍛え直してから仕事に復帰させたかった。

 父親はせめて狩りに出掛けたいと、張り切って森へ出掛けていった。心配だったのでノーラも一緒に行かせたが。

 二人が森へ出掛けている間に、トムが向かったのはギルドの館トナート村支部だ。

 彼はいつになく真剣な表情を浮かべ、ギルドの館の扉を開く。

 職員はトムの顔を見るなり、何故か悔しげな表情を浮かべていた。

 

「く……無事に帰ってきたようだな。しぶとい奴め」

「父さんの病気も治ったし、受験料を払うお金も出来た。だから昇級試験を受けさせてくれよ」


 トムの言葉に職員は目を三角にし、顔を真っ赤にした。

 まるで鬼のような形相だ。

 しかも職員は苛立たしげにデスクを叩きつけ、次のように言ったのだ。


「受験料は値上がりした。百万ゼノスだ」

「……!?」


 いくら何でもそれは法外にも程がある。

 前回は十万ゼノスだったのに。

 さらに畳みかけるように職員は怒鳴った。


「上からの命令なんだ!! 受験料は百万と決定した」

「上からの命令って……じゃ、その上と掛け合ってくるわ」


 さすがに言っていることが無茶苦茶すぎて話にならない。

 先程無事だったトムを見た時のあの悔しげな顔といい。

 昇級試験を申し出たとたんに逆上したことといい。

 今まで親切な人だと思っていた職員の豹変ぶりに、トムはショックが隠せなかった。

 そして沸々と怒りがこみ上げ、悔しげに唇を噛みしめる。



(やっぱりの言う通りだった。村長のことといい……俺達はずっと騙されていた)


 

 トムは腸が煮えくり返る思いでギルドの館の扉をバンッと乱暴に閉めた。

 家に戻ろうと前庭を歩いていると、突然数人の男達に取り囲まれた。

 その中には村長の姿もあった。

 彼も元冒険者なのでトムに向かってボウガンを突きつけて怒鳴った。


「くそ……!! 大人しくゴリウスの怒りを買って牢に入れられておけばよかったのに」

「そ、村長さん!?」

「お前さえいなくなれば、ノーラは息子の嫁に出来る……こうなったら、お前等やってしまえ」


 トムは村長が子飼いにしている冒険者達に挟まれた。

 相手はA級冒険者とB級冒険者だ。

 

「俺は前から生意気なお前が気に入らなかったんだ!! 死ねぇ!!」


 B級冒険者の方が嬉々として斬り掛かって来た。

 トムは愛用の剣を手に持ち、振り下ろされた剣をかわし懐に飛び込むと、相手の右腕を切り裂いた。

 利き腕を負傷し、剣を落とし蹲るB級冒険者に、もう一人のA級冒険者は舌打ちをする。


「だから同時に殺ろうと言ったのに、勝手に先走りやがって!」

 

 村長の子飼いの冒険者達は全く連携が取れていないようだ。

 すぐさまA級冒険者も斬り掛かって来たので、トムは剣で受け止める。そしてしばらくの間、剣と剣の打ち合いが続いた。

 トムと冒険者が戦っている間に、村長がトムに向かってボウガンの引き金を引いた。

 しかしその矢はトムに届く前に、炎の玉がぶつけられその場で燃え上がり灰となった。

 火炎弾が放たれた方を見て見ると、ニック=ブルースターと夕闇の鴉のメンバーが立っていた。

 火炎弾を放ったのはエルフの魔法使い、コンチェだ。

 トムと剣の打ち合いをしていたA級冒険者だが、振り下ろされたトムの剣の重みに耐えられなくなり持っていた剣を落としてしまう。

 慌てて拾おうとするが、その前に首元に剣を突きつけられ、A級冒険者は両手を挙げることに。

 ニックはすぐにトムの横に立ちポンと肩を叩いた。


「ありがとう、お陰でいい証拠がつかめた」

「英雄の役に立てて俺も嬉しいよ」


 トムは元々、ニックに頼まれてここに来たのである。

 大運動会が終わった後、トムとノーラはニック=ブルースターに呼ばれ、ある依頼を受けた。


「トム、五日後に俺はトナート村へ行く。その時にもう一度トナート村のギルド職員にB級の昇級試験を受けさせてほしい、と頼んでみてくれないか?」


 トム達はその時、昇級試験は受験料がいらないという事実を知った。トナート村の職員は親切な人が多かったので、すぐには信じがたかったが、真偽を確かめる為にもニックの依頼を引き受けたのだ。


(だけど、俺が無事だと分かった時の、あの職員の態度の変わりようには吃驚した。あっちが本性だったってことなのか……)


 ギルドの館を出て、すぐに襲われるとは思わなかったが、何が起こっても良いように武装しておいたのは正解だった。

 夕闇の鴉のメンバーの後ろには、白い制服を着た兵士達が整列して待機している。

 ギルドの館から外に出た職員は、その白い制服を見て顔を引きつらせた。


「ほ……保安部隊が何故ウチに……」


 保安部隊はA級以上の冒険者たちで編成されており冒険者の違反や、ギルド職員の違反を取り締まる部隊だ。

 部隊の隊長らしき男が村長の前に仁王立ちし、怒りを抑え淡々とした

口調で言った。


「お前等のやりとりは聞いていた。村長という立場でありながら罪もない村民に手をかけようとするとは……」


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